守護の力を、破壊の力を〜外伝〜【暁のヨナ】 (ページ31)

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第29話【9章:その力に意味はない】ページ31

暗闇に沈んでいくような、そんな感覚だった。
どぷん、と…底の見えない闇の中に沈んでいく。
体が重い、力が入らない、瞼は…ゆっくりと閉じていく。

自分は何故…こんなところにいるのだろう。
考えようにも、頭が働かなかった。

(……あぁ、本当に)

最悪だ。

.

ゆっくりと、瞼が持ち上げられる。
その様子に、龍たちは身を乗り出した。

パチパチと、何度か瞬きを繰り返し…自身を覗き込む龍たちを見つめた。
そして、ハッと目を見開くと丁度目線の先にいたシュテンの胸ぐらを掴んだ。

「アイツは…緋龍王は!!!」

「……ったく、目を覚ましてすぐそれかよ」

やんわりとリシスの手を引き剥がすと、シュテンはため息をついた。
倒れたというのに、第一声はそれ。
これにため息を吐かずにはいられないのは当然だ。

「緋龍王は大丈夫だ、相変わらず無茶することはあるが…お前が倒れたって聞いて、少しは自重するようになったよ」

「……そうか、」

安心したのか、リシスは表情を崩すと再び布団に倒れ込んだ。
目を手で覆い、何とか表情を隠そうとしているように見えたが……手の隙間から、表情は丸見えだった。

「心配、かけたな」

ふっと、息を吐くとやがてリシスはいつも通りに笑う。
まだ少しばかり疲れの色が伺えるが、それでも倒れた日よりは幾分か顔色が良くなっているように思える。

その様子を見て、龍たちも安堵の息を漏らした。

「なぁ、リシス」

「ん？」

「王様の治療は代わりばんこにやろう。
俺にはリシスみたいな治癒能力はないけれど……飯を運ぶくらいはできるから」

「ゼノ……」

「前に言っただろ、誰かを治してリシスが倒れてちゃ元も子もないって。
だからさ、もう少し…頼ってほしい」

「お前が強がりでいじっぱりだってことはよく知ってるけどな」

「あ？んだと？」

「おいおい、目覚めたばっかなのに喧嘩するな」

睨み合うリシスとシュテンはグエンにより引き離される。
あまりにいつも通りの光景は、彼女が倒れたことを微塵も感じさせなかった。

やがて…リシスはふっと頬を緩める。

「わかったよ、無茶はしない。
お前らに頼めることは…しっかり頼む」

「ったく、最初からそうしろ」

「お前は一言余計なんだよ」

すると、今まで黙ってリシスを見つめていたアビが、そっと手を伸ばし頭を撫でる。
普段ならその手を振り払っていたリシスだが、他でもないアビが頭を撫でたことに驚き…固まった。

「…大丈夫」

「……ふはっ、ははっ。ありがとな」