守護の力を、破壊の力を〜外伝〜【暁のヨナ】 (ページ30)

今日:20 hit、昨日:2 hit、合計:7,312 hit

第28話ページ30

パタン。

治療を終え、緋龍王の部屋から出る。
すると……ふらり、少し体が傾き額に手を当てた。

ここ最近忙しかったからだろうか、思い返せばあまり休めていなかった気もする。
しかし、休む時間すら惜しいのも事実。
……全く、やりたい事が多いというのは大変なものだ。

「……うっし、」

額に置かれていた手を上に滑らせ、髪を掻き上げる。
そして一度目を閉じると気合を入れた。
まだ大丈夫、ゆっくり休めないのなんて…城に来る前は日常だったじゃないか。

乱れた髪を手櫛で整えると、リシスは緋龍王の部屋に背を向け歩き出した。

「おい、守護龍！」

そして、少し歩いたところで名を呼ばれ振り向く。
白い龍が、こちらを見つめている。
相変わらず声がデカいんだよ、頭をガシガシとかきながら目の前の男を見つめ返した。

「！」

しかし、グエンは目を見開いたまま動かない。
呼び止めたくせに何なんだ、リシスは思わず顔を顰めた。

「(コイツ……)」

グエンは戸惑いの中にいた。

コイツ……いつから、こんなに無理してたんだ？
目の下には隈ができており、かなりやつれていて思わず息を呑む。
今までこんなリシスの姿を見たことはなかった。
出会った時から底抜けに明るく、煩いくらいだと思ったことは何度かあったか……
こんなに疲れた表情をしているなんて。

そんな彼女がここまでやつれているのを見ると、放っておくことはとても出来なかった。
彼女の肩に手を置き、言葉をかける。

「……おい、守護龍。
お前…あんま無茶するな」

「あ？」

「顔色が悪すぎるんだ。
隈もできてるし…少しは休め、王の治療が辛いなら……」

「そんなんじゃねぇよ」

被せるように言葉が紡がれたかと思えば、リシスの鋭い瞳がグエンを射抜いた。
それに、思わずたじろいでしまう。

「辛いとか、そんなんじゃねぇ。
これは…ただ私がやりたいからやってるだけだ。

それに……ここでやめれば絶対に後悔する。
救えなくて後悔するのは私だけじゃない。
この城に集う者たちが、この地で生きる多くの民たちが王と慕った者の突然の死を嘆くだろう。

そうならないように……力を尽くさねえと」

グエンの手を振り払い、リシスはそのまま歩き出す。
その背中に思わず手を伸ばすも……声をかけることは出来なかった。

.

それから数日、また数日と、リシスは治癒を続けた。
その結果……リシスは倒れ、しばらく目を覚さなかった。