第26話 ページ28
「……ゼノ?」
「うわあっ!……なんだ、リシスか」
ふと、どこか遠くを見つめる黄色の龍を見つけ声をかける。
するとその肩がビクリと大袈裟なほどに跳ねて…リシスは思わず口の端から笑い声を漏らした。
「ふはは、なんだとは酷ェな。
どうしたよ、一点見つめてぼーっとして。
一丁前に考え事でもしてんのか?」
「俺、そんな子供じゃないんだけど」
そうだったかー?どこか軽い口調でリシスは笑い飛ばす。
それを見ていたら思わずゼノの口からも笑い声が溢れた。
リシスはゼノの頭をくしゃくしゃと撫で、また笑う。
リシスにとって、ゼノは可愛い弟分のようなものだった。
「何に悩んでんのかは知らねェけど、何かあったら言えよ?
相談くらいは乗ってやっから」
「リシスは姉貴みたいだなぁ」
リシスはゼノの隣に腰を下ろし、何を言うわけでもなく自らの膝に頬杖をついてそこから見える景色を見据えていた。
その横顔をしばらく見つめたあと、ゼノはゆっくりと口を開いた。
「なぁ、リシス」
「ん?」
「リシスはさ…、龍の能力を怖いって思ったことある?」
「……。」
「俺は…」
「もちろんあるさ。まずこの人とは違う能力を持ってること自体が恐怖でしかねぇんだよ。
特に破壊龍の能力はすごく怖ェ、これは守護龍と違って壊すための能力だからな。
それに…私はこんな力、別に欲しくなかったんだから」
リシスが手を広げると、そこに淡い光が灯る。
その光はやがて…不吉な黒い光へと変わっていった。
リシスの身体に宿るのは守護と破壊の矛盾の力。
全てを守り、壊す力。
「それでも向き合ってるリシスはすごいよ。
出会った時からずっと…思ってた」
「ま、これはどっちも私の力だからな。
向き合わなきゃ結局、良いも悪いもわからねぇだろ」
ギュッと、手に浮かんだ光を握りつぶし、リシスは立ち上がった。そして…パッパッ、と服についた埃を払う。
「黄龍の能力は傷の治りが早い…だっけ?
でも無茶はすんじゃねぇぞ、大怪我した時は必ず言え。
この守護龍様が治してやっからな」
「………ありがとう、リシス」
そして去り際。
リシスはゼノ肩に手を置いて言葉を紡ぐ。
「大丈夫」
「!」
「私が…絶対に治して見せっから」
それが、何を指す言葉なのかなどすぐに分かった。
だけど…言葉が出ない。
なんと返せばいいのか、分からない。
去りゆく背中に、何も声をかけることができなかった。
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作者名:セレーナ・ラフィーネ | 作成日時:2022年2月23日 19時