優しさに溺れよう【竈門炭治郎】

肆拾弐 一人で ページ43

Aside


眠れなくて今夜も一人で縫い物をしていた。
このままだと目の下のクマが酷くなって炭治郎に見せられない。


「いたっ…！！」


ぶすりと針を指に刺してしまう。
刺してしまった親指から血が出てきた。

うわぁ、かなり出血してしまった。
最近、手を沢山使っていたから皮もめくれたりしたし傷も増えた。
稽古でできたもの、家事をこなしてできたもの…。

包帯を出しに救急箱に向かう。
立ち上がって玄関前を通るとかたんと音がした。

外で無数の音が鳴っている。
炭治郎が帰ってきたのであろうか。
無性に炭治郎を求めていた私は自然と扉に手をかけていた。


「炭治郎…？」


家の目の前の道が赤い模様を引いているのが目に入った。
血だ。
炭治郎なんていない。

……いるのは私の家族を襲った化け物。
鬼だ、鬼…鬼…
体が竦みそうになる、でも今の私はあの時の私じゃない。
ちゃんとやってきたんだ。

急いで家の中に戻り、予備として置いてあった真剣を取り出す。
着ていた羽織を整え、呼吸をする。

焦っちゃ駄目だ、焦っちゃ駄目。

こっちのことは気づかれてる。
家の中にはまだ入ってこないけど時間の問題だ。
藤の花も完全に成長している訳ではない。
羽織やお守りがあるからって必ずしも鬼に襲われないなんてこともない。

どうやら一体しかいないようだけど…。
鬼はいつどこから出てくるか分からない。

！！

鬼と目が合った。

何か飛んできた！
玄関前にいた私はするりと身をかわす。


「お前は稀血だな…」


しまった、家の外に出てしまった。
家の外におびきだされた…まんまとそっちの思惑通りだ。
それにさっき出血をしたため、稀血であることもちゃんとばれている。

こんなとき炭治郎だったらどうするだろう。
きっと己を信じて鬼に刀を振るうんだろうな。

深く深く息を吸って吐く。
絶対にこの鬼を倒してやる。
今までの私とは違う、それに炭治郎との楽しい毎日を壊したくはない。

真剣を握る手を思いっきり鬼に向けて、一直線走り出す。

流石に一筋縄じゃいかない。
鬼も上手く技をかわす。
この鬼は炭治郎が教えてくれた鬼の種類の中で特殊な異能の鬼ではなさそうだ。

いける、私でも倒せるはず！

思いっきり地面を蹴った。
ふわりと地上から足が離れる。
これで決める！


「うああああああっ！！！」


しっかりと真剣を握りしめた手はしっかりと動いた。
鬼の首に触れ、そのまま首は斬れていった。

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