【ハンドレッドノート】ホークアイズの名探偵は愛情深いようで。【司波仁】

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それは、突然だった。
突然の人混みに紛れ、すれ違いざまにやられたのだろう。
何故だか熱く感じた腹部を押さえた手は、真っ赤に染まってて。
視線を下ろすと、刃物が突き立てられていた。

『…ぇ、？』
「っは、なんで、おいAしっかりしろ！」
『しば、っい、いたい…っ、』
「A、A大丈夫か、今救急車…、」
あまりの痛みに意識が朦朧とする。
お腹を押さえて倒れ込んだ私を、司波が支えてくれている。
先程まではなかった周りの喧騒は、きっと私が刺されたのが原因だろう。
世界がぼやけていく中で、司波が必死な顔して私の名前を呼んでいるのは分かった。
大丈夫だよ、なんて言ってあげたくても、痛みのせいで息をするのだけで精一杯で。
ああ、司波が選んでくれたお気に入りのワンピース、汚れちゃうなあ…。
そんなことを考えながら、私は意識を手放した。



-side 司波仁-

「…おい、A？A、A…っ！！」
腕の中で、Aが意識を失った。
「クソッ、なんでこんな…、」
自分の中で、焦りと怒りが募っていくのを感じる。
なんでAが刺された、誰がこんなことを、今考えるべきではないことばかりが頭に浮かんで消えない。
Aの傷口から流れる血は止まることを知らず、いまだ床の赤い水溜りを大きくしていく。
ここで下手に刃物を抜く訳にもいかない、救急車を待つしか…。
…もし、間に合わなかったらAは…？
「っ、落ち着け、落ち着け司波仁…。」
1度目を瞑り、大きく息を吸った。
余計な感情が鎮まり、今自分にできること、すべきことが明確になる。
周囲を千里眼で見渡すと、Aのすぐ横をすれ違った足跡があり、随分と特徴的なものだった。
…これなら、特定もしやすい。
十分に記憶に刻んだタイミングで救急隊員が到着し、Aが運ばれていく。

「…ぁ、A、」
Aが、刺された。
意識を失って、今救急車で運ばれようとしている。
その現実を改めて認識して、頭がくらくらしてくる。
その場に立ち尽くして、絶望にも近いものを感じていると、救急隊員に同乗するかを聞かれ、病院まで付き添った。
途中でおっさんと瑠衣に連絡を入れたのは覚えているが、Aの処置が終わるまで、それ以外の記憶はほぼなかった。

病室のベッドで眠るAの手をそっと握る。
いつもは子供体温なこいつの手が冷たいなんて、信じられなかった。
「…A…っ、」
縋るような俺のその呟きと、2人分の呼吸音だけが、静かな病室に響いていた。

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