クロスロード (ページ10)

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思い出す日なんてないページ10

［R.Nagase］

「なぁ、廉」

「んー？」

「あの動画のこと、聞いた？」

「なに？動画って」

俺はその動画を見た瞬間にスマホを握りしめて自分たちの楽屋へと走った。

「っ紫耀！海人！！」

「ぅわ！びびった廉か…」

「そんな慌ててどうしたの？」

「これ、っ観てや！」

「あーこのダンサーなら知ってるけど…？」

「珍しいね、廉が海外のダンサーの動画とか見るなんて」

「ちゃうって！その人のうしろ！」

Jr.の仲間が見つけてくれたのは、有名な海外ダンサーのWS動画。

その後ろでキャップを深くかぶって踊るのは俺らの元から何も言わずに去ったAだった。
キャップのせいでダンス中顔は全然見えないけれど、踊り終えた彼女がダンサーとハイタッチをするときに少しだけ見える笑顔は俺らと一緒にいたあの頃となんら変わっていなかった。

「これ、Aやんな？」

「…うん、きっとそうだね。ダンスの癖とかもAちゃんだ」

「なんで…」

「知らんけど、あいつ辞めてからずっと海外にいるんちゃうかなって」

「あり得るね。これだけSNSが普及してるのに遭遇情報も何もなかったし」

「…紫耀？」

「………よかった」

「え？」

「笑ってくれててよかった」

みんな気持ちは一緒だった。

俺らの前からいなくなった理由なんて本当のところは本人にしかわからないはずなのに、今まで散々な嘘偽りだらけの記事が出回って。
俺たちが一番近くで見てきたものはたしかに真実だったはずなのに、そのどれもが否定されたように思えてしまった日もあった。
ファンの子だって泣いていた。未だに俺らの現場にAのうちわを持った子だっておる。

俺らは時の流れとともに進んでいるようでもしかしたらずっとあの頃のままなのかもしれない。
だってほら。こんな一瞬の笑顔だけで彼女がいたあの日々の感情も、体温も、匂いも、全部全部鮮明に蘇る。

まぁ、忘れたことなんてないけれど。

「……俺らもっと頑張らなあかんな」

「？」

「もっともっと有名なって、Aに俺らが頑張ってるって見てもらわなあかんやろ」

「そうだね！ねっ紫耀！」

「…あぁ、そうだな！」

これまで色んなことがあったけれど、Aはどんなに離れてても俺らをさらに強く結んでくれた。

そういえば、前から、そういう人やったわ。

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