クロスロード (ページ6)

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きみの歌がさよならを告げたページ6

［Y.Kishi side］

「最後の曲はMr.Kingの仁古田Aちゃんに歌ってもらいます」

「先日行われたソロコンサートでも歌われた片想いソングです」

「それでは聴いてください。『Love letter』どうぞ！」

ステージへと向かう彼女を、俺は舞台袖で見ていた。
メロディーが流れ彼女が息を吸い込むその瞬間、そこはもう彼女のものになった。誰もが引き込まれる世界。純白の衣装を身に纏って凛として前を見る姿が美しかった。

あぁ、ずっと。ずっと俺はこの人の背中を見てきた気がする。
勝てない。そう思った人。悔しかった。その気持ちがあったおかげで、今俺はここにいる。負けてたまるかと這い上がれた気がする。

彼女の存在は、俺にとって、道しるべだった。

そんなことを考えていると、ふと聞き覚えのないメロディーが流れた。
この前のソロコンでは聴けなかった、Cメロ。

『もしも私が消えたってあなたに何ひとつ届きやしない』

『だからいいよ、綺麗に忘れてよ』

『私だけがこの恋心ずっとずっと忘れないから』

胸がギュッと掴まれたように苦しくなった。

この曲は目が合うだけでドキドキしたり、好きな人のたった一言に喜んだり悲しんだり、そんな些細なこと、片想いの日常を切り取った歌だと思っていた。

…のに、Cメロのその歌詞を聴いてしまうと全然違う曲に聴こえてくるのだからどうすればいいのだろう。

楽しくてハッピーなラブソングなんかじゃなかった。この曲は、永遠の片想いに終止符を打つような、そんな曲だ。

…それなのに、どうしてそんなに優しい笑顔で歌うのか。

「えっ、岸くんどうしたの！？」

「……いや、ごめっ、なんでもない」

声をかけられてハッとした。自分でも気づかないうちに、感情が追いつく前に涙がボロボロ流れていた。
何が、とかわからない。本能的に、彼女の伝えたいものを受け取ってしまったように感じた。

だめだ、そんなの、気のせいだ。

そう言い聞かせて、彼女の手を無理矢理にでも引き寄せなかったことを今でも悔やんでも悔やみきれない。

その日を最後に、

彼女は俺たちの前から

姿を消した。

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