クロスロード (ページ13)

今日:2 hit、昨日:0 hit、合計:28,106 hit

ミチシルベページ13

［S.Hirano side］

人を助ける仕事をしたい。

災害などの被害に遭われた方たちの手助けをするような、人のためになる仕事。

俺はすぐ隣にいた大切な人を助けることができなかった。
そばにいたのに、守ってあげることができなかった。

あの時の後悔はいくつ月日が経ったって消えることはなかった。

歌ったり、踊ったり、それは好きだけれど、自分自身どうすればいいのかわからなかったんだ。

失くしたものが、あまりにも大きすぎた。

◇

事務所のずっとお世話になってきたスタッフさんと話す時間をもらってそのことを伝えると、
彼は何故か優しく笑っていた。

「…俺、なんか変なこと言いましたか？」

『いや、ごめん。…やっぱりあいつはすげーなと思ってさ』

「あいつ？」

『…Aだよ』

「A、？」

なんで今Aの名前が出てくるんだよ。
そんな気持ちは言葉にしなくても伝わっていたらしい。

いつかこんな時がくるとわかっていたかのように、目の前の彼は言葉を続けていく。

『…本人にはあくまで俺からの言葉として伝えてほしいって言われてたんだけど、』

「…」

『＂直接手を差し出すことはできなくても、それ以上のたくさんの人たちの心を救うことができるのがこの仕事。紫耀が歌って踊って、思うままに笑ってくれればそれだけで救われる人がいる。＂』

「…なんで、」

『いつだって、お前のことはあいつが一番よくわかってたからな』

「…」

『それに、本当に好きだったんだと思う、ステージに立つお前らが。願ってたんだと思う、ステージに立ち続けて欲しいって』

「…」

『たとえ離れても、あいつはずっとお前や仲間たちのこと守ろうと必死だったんだよ。その笑顔を守りたかったんだよ』

「…ほんと、ズルいやつ」

どうしてお前ってやつは、どれだけ時間をかけたって忘れることを許してくれないんだ。
だんだん忘れてくんだろうと思ってもそれでも覚えてるってことは多分一生忘れないんだろう。

それどころかこうやって側にいてくれないくせに、その存在はいつだって俺の大事なときに現れる。

わかったよ。

もうやめた。君を忘れること。

ときに愛情は優しいだけでなくて切なさや痛みの感覚さえ呼び覚ますけれど、俺はもう迷わないよ。

君が導いてくれたこの道を、ただひたすらに歩んでみせるから。

: