黒ネコさんは悪い人じゃない④【しゅごキャラ】 (ページ46)

今日:9 hit、昨日:26 hit、合計:14,393 hit

196 ページ46

◇

一瞬何が起きたのか分からなかった。

気づいたら、彼の顔がすぐ隣にあって、肩とか背中に温もりが触れていて。驚いて放心状態の私に、イクトさんが気遣いの言葉をくれた。息がかかってくすぐったい。

膝立ちで、倒れるような形で抱きしめられる。え、本当なにこれ？何がどうしてこうなった？

「なんで……？」

「ハグするとストレスが解消されるって聞いたから」

……あ、そういうこと。イクトさんなりの落ち着かせる方法か。相変わらずだ。勘違いするところだったよ。

「嫌だった？俺は、Aにこうするの嫌じゃないけど」

「………は」

「つーか、Aの心臓の音すごい」

「う、うるさいっ」

心臓だけじゃない、イクトさんにも言ったつもり。ああもう私ばかりずるいよ。面白がって笑う彼を出し抜くにはどうすればいいんだろう。

私は一度躊躇するも、結局はおずおずと大きな背中に手を伸ばした。勿論足が辛くならないように身じろいでからだ。

「嫌、じゃない。……って言ったら嬉しい？」

「うん。Aはこれ、落ち着く？」

「え……あ、えっと。まあ」

「ふーん。じゃあこれからもやる」

これから！？もう次があるの！？

今の時点で心臓ぶっ壊れそうなんだけど。触れているところ全部が熱い。気持ちが伝わってしまいそうだ。離れたらいいのに、いやそもそもやめてって言えば。

それができないのは……。

「本当は」

「ん？」

「本当は、俺が」

彼は絞り出したんだ。事ある毎に私を撫でるようになった理由みたいなものを。最初はよく分からなくて、でも半年くらい前からは。確認、って？

辺里たちと一緒にいるときとは違う。自分をイースターだからと軽蔑せず、他の奴らと同じように接する。……この言い方はちょっと違うらしい。

素顔を見せてくれる私が本当にそこにいることを確かめるために。その想いで触れていた。とか。なんか今日のイクトさん、めっちゃ喋るね。

「ていうかいつまでこうしてるの」

「『嫌じゃない』って言ったじゃん」

「……あむと話していたこと、まだ聞いてないんだけど」

腕の力が弱まる。ハグすると脳内でβエンドルフィンやオキシトシンとかいう幸せホルモンが分泌されるんだっけか。

たしかにさっきまでの不安が消えている。自分の手のひらを見ても、震えや汗が無くなっていた。……落ち着いた、だけじゃないけどね。

体が離れる前、彼はいつものように私を撫でた。

.