黒ネコさんは悪い人じゃない④【しゅごキャラ】 (ページ19)

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何で。

「なんで相馬を連れてきたのかなぁ？」

「行くって言うから」

「……あんたもあんた。さすがに職権乱用の範疇超えてる」

「いや〜……はは、ていうかAさん全然元気そうじゃんか」

「話をすり替えるな馬鹿者」

相馬にはデコピンを食らわせてやった。こらこら、目の前でコソコソ話かい？

どうしてAさん機嫌悪いんすか。ご飯食えねえからだろ。全部聞こえてるからね。私が食いしん坊みたいな言い方しないで。

大きなため息をついてベッドに腰を下ろす。やや沈黙してから楽くんが「ま、ほんと目覚めてよかった」と安堵していた。そして追加で持ってきた荷物を肩から下ろす。

その中には携帯の充電器も入っていた。めっちゃ助かる。

「…………なんでずっと黙ってるの。わざわざ来たのは、辺里たちには内緒の理由があるんでしょ？」

「あー、えっと。そのう……」

てん、てん、てん。沈黙なんて相馬らしくない。思い立ったら行動。とりあえずの"走り込みダッシュ"はどうしたんだ。

私、午後にも検査まだ残ってるから……。食事のリハビリは夜からだし。面会時間にも限りがある。だからあまり長引くのは逆によろしくないというか。

「教えてほしいことがあって…」

「うん」

「前に言ったよな。オレが羨ましいって。自分には何も無いからって。アレ、本当はどういう意味だったの？」

…………よりにもよってその話かい。

めちゃくちゃ驚いた。

「久しぶりだね。相馬が私にそういうこと言うの」

「え、あ……はい」

「『はい』って、ビビってんの？別にとって食うわけじゃない。前みたいに流そうとも思ってない」

彼に少し頭下げて、と言う。そして猫にでも触れるように撫でた。普段の彼は猫というより大型犬かもしれないけれど。

ていうか気づかれるなんてね。絶対二織が余計なこと言ったんだ。本当にクソ野郎。

「ねえ楽くん」

「あれ？すっかり空気にしていた俺のこと、覚えていたんだ」

「ごめんて。それで、楽くんは知ってた？私の嘘」

すると楽くんは緩やかな弧を描いて、

「知ってたよ。嘘、は半分だけだって。自分でもどう言えばいいか分からないんでしょ？」

「……！」

全部は違わないの。記憶があったら、記憶が無いから。羨ましいけど、忘れてしまったから。

私はAだけど、"A"じゃない。もし記憶が戻ったら、今の私はどこへ行くんだろう。それがものすごく、怖い。

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