黒ネコさんは悪い人じゃない④【しゅごキャラ】 (ページ17)

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窓の方向に面しているのは駐車場ではなく広場とはいえ、傍から見たら異様な光景には変わりない。どんなに早くても8時半までは看護師さんも訪ねては来ないから……

個室であることに感謝したい。彼はひらりと身軽そうにジャンプ。窓の枠に足をかけて身体を滑り込ませる。

その様子を、もう温もりがなくなったベッドに腰掛けて見守っていた。お見舞い……にしては早すぎるよね。でもロストは勘づいていたのか？いないってことはそういう可能性が無きにしも非ず。

「何ともないのか？」

「思い出してはないけど忘れてもないよ。……そうだ、ごめんね」

「？」

「イクトさんの前で倒れたの初めてだったし。しかも中々目覚めないで心配かけちゃったよね……？」

私が気がついたことを知るのはひとつ屋根の下で暮らすあの二人だけ。イクトさんは次男の方から連絡が来たと教えてくれた。

驚かせたことを謝りたかった。でも、私が笑顔を浮かべると彼は目を細める。何を考えているのか表情からはわからない。え、何。怖いって。

ぴくりとも顔の筋肉を動かさないまま伸びてきた両手は私の頬を優しく掴む。そして、左右へ引っぱられた。

「痛い(いひゃい)……」

「下手くそに笑うのをやめるなら」

「やめる(ひゃえう)やめる(ひゃえう)、」

くそう。片手しか自由が効かないからって。というかこの人、オブラートを勢いよく剥がしたな。

見上げて口を尖らせると、反対にイクトさんが微かに笑う。どこか満足そうだ。……う、顔が良い。ロストが変なこと言わせたから意識しちゃうじゃん。

「……怖かったよ」

「え？」

「目を覚ましたとき、俺を忘れていたらと思うと不安だった」

ポスン

彼の片手が肩に触れた。五指が患者衣にシワを作る。強くもないけれど簡単に抜けられそうもない力。そして反対の肩にイクトさんが顔を埋めたら、冷静はもれなく吹っ飛んだ。

吐息が鎖骨のすぐ上を掠める。くすぐったくて微かに声が漏れ出た。

それでもこの人は顔をあげないし何も言わないんだ。スッキリとした爽やかな香りが鼻に届く。髪、清潔にしてるんだ……なんて思ったり。手、肩から二の腕に下がってきたと気づく。

「………えと、私も忘れたくないよ。イクトさんと、勿論ヨル君も」

「はっきり忘れない、とは言わないんだな」

「守れないかもしれない約束はできないよ」

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