黒ネコさんは悪い人じゃない④【しゅごキャラ】 (ページ11)

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重力のままに彼女は放り出された。こはくとヨルの、切迫した声が重なる。頭が床に着地したゴツンという鈍い音を聞いて足早になった。その背後でドアがガチャリと開く。

振り返る余裕はなかった。でも、確認する必要も無いだろう。どうせ思ってることは同じだ。

「A、おい、」

一足先に駆け寄った俺はAを抱きかかえた。呼んでも返事はない。気を失っているようだ。

心配と驚きは徐々に違うものへ変わる。どうしてこうなるまで平気なフリをしたんだ。それは気遣い、なんかじゃない。

とりあえず部屋へ運ぼう。肌寒い玄関先じゃ風邪をひく。俺はAの背中と膝裏へ両腕を差し入れる。ノーリアクションの現実を前に、のしかかる質量以上の重みを感じた。

「お、オレのせいだよな、やっぱり」

「だ〜っ！ウジウジウジウジうるせーデスよ！！申し訳ないと思ってんなら静かにするデス！！」

「お前らうるさいっ」

俯く二織を目障りに思ったのか、こはくが大きな声でキーキー喚く。そこをキリクが戒めた。

気が気じゃないのはわかるけどちょっと騒がしいがすぎる。声の音量考えてくれ。それと、自分をせめるのも後でいい。

「しっかりしろ。今頼れる家族はお前だけなんだから」

「イ、イクトぉ…」

情けない面を晒していた奴は少し我に返ったのか、急降下していた眉が多少もちなおす。それにしても……、

Aがこうなる話は聞いてはいたけど、目にするのは初めて。動かない彼女を見た途端、ドックンと心臓の音が一際大きく聞こえた気がする。

「当たりどころ、悪くねーといいデスが……」

「え？」

「貴様も見ていたデス。頭をぶつけたのを」

こはくは、間に合っていれば、とでも言いたそうな口ぶりだ。心配は心配だけど彼女……いや、こいつらには他にも懸念があるのか？ヨル以外が急に口を閉じる。

俺はもう一度自室のベッドに横たわるAを見やった。顔の辺りに手をかざせば規則正しい寝息を感じる。意識が落ちて少ししたら健康体とそう変わらない様子になるのは本当らしい。

「どういう意味だ」

「分からねーデス？今回の衝撃はアレの何倍も弱いとはいえ、脳は繊細デス。人一人の記憶を飛ばすんデスから」

「大事無いか、また失うか。はたまた奇跡でも起こって全部取り戻すか。これは賭けだね」

嫌な汗が首を辿る。言い終わると口を、こはくは真一文字に。キリクは「やばい」と言いたそうな顔で弧を描いていた。

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