黒ネコさんは悪い人じゃない②【しゅごキャラ】 (ページ8)

今日:13 hit、昨日:43 hit、合計:94,226 hit

058 ページ8

◆

「イクト？」

俺の名前を呼んだのは二織だった。夏休みに入ってからは初めて会う。丁度こいつの家に行くところだったが、その方向から来たということは、これからどこかに行くところだったんだろうか。

用事は少し前に連絡をもらった曲の件。録音データを渡しに行く途中だった。

「これ、いい曲だった。誰が作った？」

「それは秘密。」

「A……なわけないか。」

「当たらずといえども遠からず。」

「どっちだよ。」

はっきりしない。でも、この曲を教えてくれたのはAだ。二織は口が軽そうに見えるが、実際は違う。特に家族のことに関しては簡単に口を割らない。

だからこそ、Aと初対面のあの日は例外。前に聞いた通り、自意識過剰でもあるが俺のことを信用しているっぽい。本人の口から「信じている」なんて聞いたことは無いけど。

ていうか気恥ずかしさと女々しさで聞けない。俺たちは少し前まで睨み合う関係でもあったしなんとなく気まずいこともあって。

「もしかして、家(ウチ)に来る途中だった？今誰もいないよ？」

「Aも？」

「あいつは昨日からガーディアンで海行ってる。帰るのは明後日の昼とか。」

そして長男はバイト、自分(にしき)はサッカー部の助っ人で学校に行くところ、と告げる。小学生の頃にはサッカー部で毎夜遅くまで練習してたと以前聞いたことがある。中学で継続していないのは予想がつくから「なんで？」とは言わないけど。

とにかく、曲について話したいこともあったのに預けた本人がいないんじゃあ意味無い。それに、往来での立ち話もそろそろ止めないといけないらしい。二織はスマホで時刻を確認して急に焦りだした。

暇なら練習試合見にこないか、と誘われたけど断る。返事を聞けば、あいつは小走りで行ってしまった。さて、どうしよう。

「明後日…。」

今日はバイオリンで演奏したときの手応えも、楽譜の感想も、話せないらしい。二回朝日を拝めば会えるのに、なんだかとても先のように感じた。

久しぶりに楽しめたからだろうか。気持ちよく弾けたからだろうか。…この曲を作った奴を誰か聞きたかったけど、それは叶わないらしい。

.