黒ネコさんは悪い人じゃない②【しゅごキャラ】 (ページ47)

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Aは可哀想と思われることが何よりも嫌いだ。今の自分を望まれていないように思うから、と以前こはくから聞いたことがある。俺からすれば疑心暗鬼だと感じるが、そんな一言で済ませられるほど容易い話ではない。

また、何も知らない他人にニコニコ笑うのは、これ以上『可哀想』だと評価されないためだとか。だが、こうして落ち込む姿は何度か見てるはずなのに、泣いているのは初めて見た。そこまで深刻になっていたのかと思うと、気づかなかった自分に胸が痛い。Aに涙は似合わない。

「俺の言葉がAに届くかは分からないけど、今の自分をあんま悪く思うな。それに、お前の兄さんたちはAが思っているよりA自身を見てくれているよ。」

「…イクトさんも？」

「俺はさっき言っただろ。」

「こういうのは何回聞いてもいいの。」

楽しそうに笑ってるし一先ず大丈夫だろう。笑ったり、落ち込んだり、泣いたり、コロコロと表情を変えて忙しい奴だ。でも、ガキらしいというかなんというか。思わず手を伸ばして、唯世の家にいたベティを撫でるようにAの頭を撫でた。

少ししてそれを引っ込めると、消毒されて手付かずだったマイクを握るA。続いて選曲するデンモクを手に取ると、慣れた手つきでタッチペンを動かした。え、歌うのか？

用は済んだのか立ち上がる。すると部屋のディスプレイの画面が変わった。

「前見たときからイクトさんと歌唄ちゃんってどういう関係なんだろうって気になってたの。で、その情報と交換で少し前からボイスレッスンに通い始めたんだよね。うちのしゅごキャラが、私に歌ってほしい曲があるからって。」

「いくつかツッこませろ。」

「ごめんもう前奏終わるからちょっと待って。」

クラシックとは全然違うメロディ。すぅ…と息を吸い込んで歌い出したときには、もうメソメソ泣いていたAとは別人の横顔が見えた。

話がAの用事だったはずで。まさか本当にカラオケをするとは思わなかった。気持ちよさそうに歌うその曲は俺があまり聴かないジャンルだけど、本当に好きなのが伝わってくる。

これはAの元々の表現力が影響してるのか。歌詞が言霊のように俺の心へ語りかけてきた。一周まわって唖然としてしまう。ボイスレッスンなんて要るのか？

「どこが可哀想なんだか、」ﾎﾞｿｯ

それほどの才能を持ってるなら尚更。

お前は可哀想じゃない、恵まれてるよ。

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