黒ネコさんは悪い人じゃない②【しゅごキャラ】 (ページ46)

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いつもどうやってイクトさんと話しているっけ。本人と会えたのは良かったけど、これから話すことを考えたら柄にもなく緊張してしまう。見てあの顔、絶対様子おかしいって思ってるよ！！

はあ、とため息が零れたのを彼は見て見ぬふりしてくれなかった。薄暗い部屋でテーブルを挟んで向かい合う。今日はなぜかフリができない。イクトさんは私にとって心地よい人のはずなのに、今この時間はむずむずして目を合わせることができない。

聞こえるのはヨル君とこはくの声だけだ。ヨル君用の煮干しをあげると、目を輝かせて喜んでくれる。それを見て少し心が落ち着いた。いや、強引に落ち着かせた。

「……何も聞かないんだね。」

「どう見ても話せる状態じゃ無かっただろ。」

「あー、お見通しかぁ。」

「んで、こんなところまで連れてきて何の用だよ。」

ピリッと空気が張り詰める。さっきまでの動揺はどこへ行ったのか。私を気遣うイクトさんの声を聞いたからだなんて夢物語はしたくないが、期待してしまう。

絞り出したのは本当に自分の声なのか。伏せた目を上げれば、ばちっとそれが絡む。あなた美青年なんだからそんなジーッと見ないでほしい。心臓に悪い。

「イクトさんも、私を可哀想だって思ってる？」

私は、基本的には自分しか信じていない。一人の人間として好きな人はそれなりにいるけど、その人たちのことも「信じてる？」と聞かれたら割と微妙だ。

そもそも信じることの概念って何？口ではなんとでも言える。無責任なことが言えないのは言い訳かもしれないが、今の私にはいくら周りが否定してもそれさえも受け止められない。本音を知りたくて変に探ってしまう。

「“も”って？誰かがそう言ったのか？」

「違う、けど。」

「俺は思ってない。最初からかと聞かれたら自信ないけど、俺は今のAしか知らないしな。」

「………。」

「記憶が無い自分が可哀想なら、思い出したいのか？」

「家族にとってはその方がいいのかな…？でも私は怖いよ。これ以上“自分”を失いたくない……。」

ゆっくりと流れる涙ではなく、涙腺から零れたそれはストンと落ちてスカートにシミを作る。なんだもう、泣き虫じゃないんだから。両手で顔を隠そうとすれば、反対側にいたイクトさんが立ち上がる。

驚いていると、彼はソファ伝いに私の隣へ歩み寄る。肩が触れない距離に再度腰を下ろすと、目尻を濡らす残りの雫を指の腹で拭った。

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