事件 一 ページ31
「救急車を呼べ！」
怒号を放ったのは、“事件慣れ”しているーーもっと言えば、“死体慣れ”してしまっている、小五郎だ。パニックに陥る会場において、彼は比較的冷静だった。
小五郎の指示に、フロアのウエイターの一人が、はい！、と飛び出していく。それを確認して、小五郎は倒れた澤田氏に近づいた。彼の歩みに合わせ、人の波が道を作られていく。安室は小五郎が開く道を追っていき、そのさらに後ろを、コナンは付いていった。小五郎に見つかれば、「ガキが見るもんじゃねえ、」と締め出されること請け合いだからだ。 ……言い訳のようになるが、コナン自身、自分の行動がーー小学生とか高校生とかの問題ではなく、庇護されるべき未成年としてーーあまり褒められたことではないことも、また小五郎の言うことが正しいことも分かっている。だけれど、正義感だとかある種の欲求だとかに抗えないのだ。これはもう、探偵としての性だと諦めるしかない。
ーーそこまで考えて、人が倒れたというのに頭が冷静に回っていることに自嘲を禁じ得なかった。状況的に事件性は低いとは言え、ゼロではないというのに。探偵という肩書きに誇りはあるけれど、こういう時、感覚が麻痺しきっていることにどうしようもない自己嫌悪を覚えてしまう。
無意識に俯かせていた顔を上げれば、澤田氏の元にしゃがみ込んだ小五郎が、氏の呼吸や脈を確認している。まだ死んでいると決まったわけではないと言うのに、小五郎のその作業が殺人現場での刑事を彷彿とさせーー実際、彼は元刑事なのだがーー、どうにも心穏やかでいられない。それは参加者たちも同じようで、彼らの目の殆どが小五郎に向けられていた。
「ふう……僅かだが息はある。拍動もだ。」
小五郎がそう言うと、会場内のパニックは少し収まったように思えた。
ーーけれど。
「発作か何かか……あるいは、毒物か。」
瞳孔などの様子をさらに詳しく確認していた小五郎がぼそりと呟いたそれは、しかし何故かはっきりと響いた。前者は仕方がないにしても、後者は。穏やかでない一言に、短く悲鳴が上がる。
ここに集うのは、皆それぞれの業界で名を轟かす者ばかりである。いや、そうでなくとも、自分達が飲食を行なっていた場で毒物混入があったとなれば、誰しも動揺は必至なことで。
「ああ、いや。可能性の話です。詳しいことは、病院での検査を経てからですな。」
小五郎の咄嗟の弁解にどうにか納得したようだが、それも気休め程度にしかならない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1178人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
美園(プロフ) - 今日はじめて見ましたがとても惹き込まれました！ (12月24日 19時) (
レス) id: 69d991c9f1 (このIDを非表示/違反報告)
彩(プロフ) - 大好きな作品です…！ (6月29日 17時) (レス) @page1 id: 7b1be7f011 (このIDを非表示/違反報告)
むる - え！？！？！？！更新なくて残念です泣泣泣めっっっちゃくちゃ気になります………すごく読みやすくて設定も凝っててめちゃめちゃ良かったです。 (2022年8月14日 2時) (レス) id: 6ed738b467 (このIDを非表示/違反報告)
ししゃも(プロフ) - 続きが凄く読みたいです。更新お願いします! (2022年7月27日 8時) (レス) @page43 id: 4d9c9f1a17 (このIDを非表示/違反報告)
舞琴(プロフ) - めちゃ続きが読みたいですっ！！！！更新待ってます！！！！！！ (2022年4月23日 23時) (レス) id: 6e4f314873 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：菫色 | 作成日時：2018年4月29日 20時
