或る招宴 漆 ページ19
濃茶の髪を撫で付け、暗い色のスーツを身につけた彼の歩みは、姿勢良く堂々としたもの。そして此方を見据える彼の顔立ちは、彫りが深く、異国のものだ。
「サワダ、探しましたよ。」
「ああ。悪いな。っと、紹介致しましよう。私の秘書です。」
「チャールズ・リデル、と云います。」
丁寧に挨拶した男ーーリデルにつられ、敦とアーサーも再び名乗る。
「中島敦です。」
「アーサー・コナン・ドイル、です。宜しくです。」
特にアーサーは、すっと手を出してリデルに握手を求めた。リデルも快く応じ、二人の手がきゅっと握られた。
二人の手が離れた所で、リデルは澤田氏に「すみません、」と声をかけた後、何かを告げた。あまりに小さな声だった事と、周囲の声が大きかった事などが相俟って、何を云ったか迄は聞き取れなかった。先程同様、聞き取る心算も無かったのだけれど。澤田氏は、驚愕したように目を見開いたのち、「では私も向かおう。」と答えた。よく分からないが、二人の間で話は纏まったらしい。
「すみません、少し所用が出来ましたので我々は席を外させて頂きますね。」
そう云って、澤田氏とリデルはその場を去った。
「お飲み物、お持ち致しました。どうぞ。」
彼等と入れ違うように、今度はあの給仕がやってきた。盆の上に三つのグラスを乗せており、その内の一つを小林氏へ、一つを敦に手渡す。
「あ、ありがとうございます。」
「はい。其方の方もどうぞ。」
そしてもう一つを、アーサーに渡す。アーサーが受け取ろうと手を伸ばした時、給仕の手とアーサーの手が重なってしまった。
「あっ、すみません。」
「此方こそ、申し訳ないです。」
給仕はもう一度アーサーに「すみません。」と謝り、そしてそのまま一礼してその場を後にした。
其処でアーサーは、突然「敦。」と声をかける。
「僕は一寸此処を離れるです。その間の小林氏の護衛、宜しくお願いするです。」
「え、あっ、はい。」
「任せたですよ。」
念を押すように云った後、アーサーはグラスを手にしたまま何処かへ行ってしまった。
「アーサーさんは、凄い方ですね。」
ぼそりと云ったのは、小林氏だ。
「凄い、ですか。」
「ええ。何もかも見透かしたような目をしてらっしゃるーー否、本当に見透かしておられるんでしょう。けれど、我々には何を悟らせる事もない。本当に、とても優秀な方だと思いますよ。私の部下に欲しいくらいです。」
小林氏は、そう云ってグラスに口を付けた。
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美園(プロフ) - 今日はじめて見ましたがとても惹き込まれました! (12月24日 19時) (レス) id: 69d991c9f1 (このIDを非表示/違反報告)
彩(プロフ) - 大好きな作品です…! (6月29日 17時) (レス) @page1 id: 7b1be7f011 (このIDを非表示/違反報告)
むる - え!?!?!?!更新なくて残念です泣泣泣めっっっちゃくちゃ気になります………すごく読みやすくて設定も凝っててめちゃめちゃ良かったです。 (2022年8月14日 2時) (レス) id: 6ed738b467 (このIDを非表示/違反報告)
ししゃも(プロフ) - 続きが凄く読みたいです。更新お願いします! (2022年7月27日 8時) (レス) @page43 id: 4d9c9f1a17 (このIDを非表示/違反報告)
舞琴(プロフ) - めちゃ続きが読みたいですっ!!!!更新待ってます!!!!!! (2022年4月23日 23時) (レス) id: 6e4f314873 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:菫色 | 作成日時:2018年4月29日 20時