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「ちょっ、元太くん! 失礼だよ!」

男の子の隣に座っていた女の子が咎める。が、アーサーは特に気にした様子も無いーーどころか、男の子に目を遣る事も無く、然し受け答えするように口を開いた。

「別に良いです。敦も気になってるですよね?」

其処で唐突に話を振られた敦は、然し全く気になっていないと云えば嘘になるため、「まあ、少しは……」と曖昧に濁す。矢張り気に留める素振りも見せないアーサーは、何処か異様と云えば異様だ。尤も、其れが只の無関心故なのか、其れこそ太宰の様に何か考えが有ってなのかは、敦には分からない。

「日本には長いこと居るですけどねー、どうも癖になっちゃってるです。」

敬語の正しい文法だとか一々複雑です。日本語は面倒ですよ。
そう云って漸く、アーサーは彼等の方を向いた。心做しか、彼の青い瞳に光が宿った気がする。爛々と、と云うよりは寧ろ、相手を冷静に見定める様な怜悧なそれが。
けれどそれも一瞬のこと。ぱっと元の表情に戻ったかと思えば、今度は優しげな微笑みを浮かべる。

「ところで、袖すり合うも何とやら、少しお話でも如何です?」

……この人は本当に読めない。
敦は、アーサーについての新たな情報を頭に入力(インプット)する。太宰の如き胡散臭さは無く、乱歩の如き無邪気さや幼さは無いが、アーサーの本質は彼等に似通う其れである。敦の感性はーー或いは虎の本能は、其れを敏感に感じ取った。

「ーー如何したですか、敦。」

思考に入り込んだ敦を掬い上げたのは、アーサーの一言。はっと顔を上げれば、アーサーの双眸と十二の瞳が自分に向けられていた。

「え、あ、すみません。ぼーっとしてました。」
「そうですか。もしかして疲れてるです? 治は相変わらずですからねえ。敦の苦労もお察しするです。」
「いえ、そんな事は無いですけど……あ、でも太宰さんの自 殺は如何にかしたいですね。回収に行くの大変なんです。ははは……」

苦笑交じりの言葉は、敦の本心だ。自分を救ってくれた先輩の悪癖は、今に始まった事では無いとは云え、かなり面倒なもので。まあ自 殺と云っても、本気のものではなく、水浴び感覚で川に飛び込んで居る様に思えてならないのだが。
何れにせよ、『太宰=自 殺愛好家』は周知の事実である。
けれど其れは、横浜という魔都で始めて成り立つ等式でもあるのだ。

「じ、自 殺!?」

よって当然、ごく普通の人間には物騒極まり無い会話である。

五→←参



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美園(プロフ) - 今日はじめて見ましたがとても惹き込まれました! (12月24日 19時) (レス) id: 69d991c9f1 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 大好きな作品です…! (6月29日 17時) (レス) @page1 id: 7b1be7f011 (このIDを非表示/違反報告)
むる - え!?!?!?!更新なくて残念です泣泣泣めっっっちゃくちゃ気になります………すごく読みやすくて設定も凝っててめちゃめちゃ良かったです。 (2022年8月14日 2時) (レス) id: 6ed738b467 (このIDを非表示/違反報告)
ししゃも(プロフ) - 続きが凄く読みたいです。更新お願いします! (2022年7月27日 8時) (レス) @page43 id: 4d9c9f1a17 (このIDを非表示/違反報告)
舞琴(プロフ) - めちゃ続きが読みたいですっ!!!!更新待ってます!!!!!! (2022年4月23日 23時) (レス) id: 6e4f314873 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:菫色 | 作成日時:2018年4月29日 20時

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