191.リグレット…side K ページ28
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君のことは好きじゃない。
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ハッキリ言われた午後六時。
雨は私を慰めるかのようにバシャバシャと降り続ける。
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和也さんはどうやら急いでるみたいで、私がすみませんと謝って離れていくと
早足で改札機の向こうへ消えていった。
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午後七時。
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帰る気にならなくて、ふらふらと駅構内を漂う。左耳。昨日の夜家に帰って
心配する両親をよそ目に、お兄ちゃんの声も丸無視で
前に買って、勇気がなかったピアッサーを取り出して夜中の二時にパチンと穴を開けた。
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ピアスの穴を開けると運命が変わる。
よく言われる、それは嘘だった。
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西野さんの耳に穴は開いてなかった。イヤリングをしてると言っていた。
運命を変えるのと同時に
唯一勝てるのはそこだと踏んだから。穴を開けてない西野さんに勝てるのは、穴を開けることだと。
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パチン、と怖さに打ち勝って開けたピアスホールは
ただひりひりして痛いだけ。
大人になったなんてそんなの嘘だ。
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午後八時。
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あんなにハッキリ言われたらもう好きなんて言うことさえも許されない。
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黒髪なんていらない。
制服なんて脱ぎ捨てたい。
煙草も
お酒もわからない。
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午後九時。
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ことちゃん。
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私の名前を優しい、柔らかい声で包み込んでくれたのは私を拾ってくれた人。
今日はfishは定休日。
その声に反応して涙を滲ませていた目を上に向ければ
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琴海「…さとしさん」
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黒いジャケットに黒いパンツ。いつもとは雰囲気が一味もふた味も違う
智さんが私を見て優しく微笑み、こちらにやって来る。
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ボロボロになった心臓。
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なんでここに？と問えば、どうやらお知り合いとさっきまでご飯を食べていたらしく
その人を家まで送り届けてきたところ、らしい。
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だからそんなにおしゃれなんだ、とふっと心の中で笑う。
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智「ことちゃん」
琴海「…はい？」
智「いいこと教えてあげる」
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私はこの時初めて
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智「主人公になれない恋だってあるんだよ」
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この人をこわい、と思った。
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