シェリー・アンド・シェリー Part7【K.N】 (ページ26)

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189.雨に打たれ、唄え…side N ページ26

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和也「…雨？」

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fishを出て、必要最低限の生活必需品だけをカバンに詰めて見慣れた街を歩き

Aはどうせ定時過ぎまで帰って来ないと分かっていたから、プラプラとまるで浮浪人のように漂ってた。

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服屋に入ってみたり、雑貨屋に入ってみたり、タワレコに入ってずっと試聴していたり。

利き手の左手が使えないってのはなかなか不便で何度舌打ちしたことか。

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プラプラとして、ふと時計を見ると短針は六の少し前。つまり六時前を示していて

そろそろあいつの家に帰らないと、あいつが鍵がなくて入れなくて困っちまう。

今まで右往左往していた足の向きは自然と駅の方へと向かってた。

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その途中。雲行きがあやしいな、とは思ってたけどまさか本気で降ってくるとは思わないじゃん？

ぽつ、と俺の右瞼を打ったのは確かに雨。

それに気づいて空を仰げば続々と「俺も俺も！」と降ってくる雨粒にまた舌打ち。

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少し駆け足で、駅まではもうすぐだったから平然と傘を挿し出したサラリーマンを一瞥して

すぐに屋根の下に避難。するとそれをまるで見計らったようにザーーーーといきなり強く打ち付けるものに変わり

うわ、まじか。って眉間にしわを寄せる。

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和也(…そういや)

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『いってきます』

和也『いってらっしゃい』

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和也(…あいつ、傘持ってなかったような)

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俺の記憶間違いじゃなければ、薄い淡い黄色の傘は玄関に寂しそうに留守番中だったはずだ。

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ーーーー…もし。

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この大雨で会社から出られなくて困ったな、って空を見上げてたら？

最寄りの駅で、コンビニで傘を買おうとして全部売り切れで

しょうがない！って腹を括ってずぶぬれになりながらも家に帰ってきていて鍵が開いてなくて

ぶるぶる…と体を震わせて風邪を引いたりしたら？

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ありえる。あの貧弱そうな体は、案外すぐに風邪を引く。

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和也「…めんどくせぇな」

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はあ、って溜息を吐いて駅構内を駆け足で駆け抜けようとカバンを持ち直した

そのとき。

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かずなりさん

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聞き覚えがある、琴のような澄んだ声。

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