その感情をいっそ知りたくなかった ページ35
けど、咄嗟にそんな恥ずかしい台詞なんて言えるワケもない。
僕は殿みたいにその場で女の子を褒めれないし、鏡夜先輩みたいにフォローもすぐ言えない。
ハニー先輩みたいに癒しとか出来ないし、モリ先輩みたいに何も言わずに慰める事も。
光みたいに笑わせれない。
ーー安室先生みたいに、暁の全部を包み込めないけど。
「…れいだよ。」
『ん?何か言った?』
いつもと同じ、なんにも気にしてないって顔の暁の腕を掴んだ。
驚いたように僕を見上げた暁の目は、初めて素だと悟った。
取り繕ったない、純粋な驚きの表情。
「暁は綺麗だよ。目の色が違ってても、僕らと何にも変わらないじゃん!」
その瞬間、何の前触れもなく気が付いてしまった。
この暁を見てると、浮かんでくる感情の正体を。
ーー…僕は、暁が好きなんだ。
友達としてではなく、異性として。
ようやく、ようやく答えが分かった。
『あ、ありがと…。』
驚きながらも暁はぎこちなく笑う。
ただそれは、いつもの余裕ぶった何かを隠してる笑みじゃない。
僕が初めて暴いた暁の表情は【驚き】だった。
ようやく今更、僕は自分の気持ちを自覚してしまった。
それはあまりにも無謀で、勝ち目なんて無いのは分かりきってる。
苦しく、きっと辛い思いもするだろう。
ーー…だけど。
「なァに?照れたの?」
『バッ…!照れてねぇよ!』
光以外で、こんなにも興味が惹かれるのは悪くない。
どんな事を言えば笑うのか、どんな表情なら楽しませれるのか。
そんな面倒な事を、考えてみたくなってしまう。
なんで、こんな口の悪い歳上を好きになったのかは分からない。
見た目も、性格も、きっと僕が理想としてた感じでは無いのかもしれない。
同い年で、旦那持ちじゃない女の子が。
けど、当たり前のように【僕】と【光】を見分けてくれた。
真っ直ぐに家柄とかも考えずに怒鳴って、悪態を吐く暁が好きらしい。
だから。
「…いくら絶望しかないって解ってても。」
ーー嘘でも、この感情を知りたくなかったとは…言いたくない。
矛盾してるこの感情に名前を付けるなら。
それは【恋】だろう。
〜馨side 終了〜
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作者名:四條暁 | 作成日時:2021年8月9日 5時