海の中を彷徨ってるこの感情 ページ34
〜馨side〜
零「じゃあ、僕が買って来るよ。」
『うん、ごめんね零さん。』
お客さんから注文を聞き終わってカウンターに向かうと、安室先生が裏口から出ていったのが見えた。
「暁?安室先生、どっか行くの?」
『あ、馨。牛乳切れたから買い出しに出てもらったの。』
そう言って暁は小さく笑い、エプロンを着始めた。
…どうやら、先生が帰ってくるまでに厨房に回るみたいだ。
「じゃあ僕も手伝うよ。」
『え、別に良いよ。』
「暁一人だと、ダークマター製造されそうだし。」
『失礼だなこのクソガキ。』
ホントはそんな事思ってないが、僕がそう言うと暁は途端にムスッと眉間にシワを寄せた。
その時、ふと昨日の夜に見掛けた暁が脳裏に過った。
…夜中、トイレに行こうと部屋から出て何となく窓を覗いた時。
暁と、昨日のあの男が楽しげに笑っていたのを見つけた。
僕らが一緒の時とは見せない、本当に気が緩みきった笑顔だった。
いつもなら、周りの気配とかにも敏感なクセして僕の事にはすぐ気が付かなかったらしい。
それだけ気を張ってなかったって証拠でもあって、胸がギュッと掴まれた。
ーー暁を見てると海を泳ぐような感覚を覚える。
水みたいに透明で掴めなくて、言葉って
どんなに暁の背中を追い掛けても上手く走れなくて、水中を
それがいつからなのか、もうキッカケすら忘れてしまったけど。
ただ、あの月明かりに照らされた暁と目が合って時間が本当に止まった気がした。
深紅と金の瞳が真っ直ぐに僕に向けられ、簡単に心臓が跳ねた。
「…そう言えば、暁今日はカラコンしてんだ?」
『え?ん〜…まぁ、ね。』
ホイップクリームを絞りながら、注文されたパフェを作る暁の目はいつも通りの深紅。
昨日の妖しげな雰囲気はそこには無く、大人しい綺麗さを持ってるいつもの暁だ。
『あ〜…その……目の色で昔色々と言われたから、隠してたって部分があってさ。』
とても言い難そうに、彼女は不恰好に笑みを浮かべた。
その様子から、あまり触れてはいけなかった話題なんだと悟った。
『怖いでしょ、目の色が違ってると。』
「そ、んな事。」
一体、どこが怖いと言うんだ。
こんなに綺麗な深い色をした、瞳をどう怖いと言えば良いんだよ。
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作者名:四條暁 | 作成日時:2021年8月9日 5時