桜が魅せる【初恋】の幻想 ページ10
気を取り直して向かった先は鴨川を東へ走った【蹴上インクライン】。
琵琶湖から京都へと引かれた水路間の段差を繋ぎ、船をトロッコに乗せて運ぶ鉄道としてつくられたそう。
今では線路しか残っておらず、その長さは582mで線路沿いに植えられた沢山の桜が満開に咲き誇っている。
線路を登りきった先ある疎水公園の祠には、台座の上に石仏が鎮座していた。
花活けには【義経大日如来】と刻まれてる。
服部君による解説を聞きながら頷く私と、再び絵を見て祠周りを見渡す江戸川。
『どうだ、江戸川。』
返事の代わりに深い溜め息が返ってきて、服部君は苦笑する。
服「ここも外れみたいやな。昼飯にしよか。」
『だなぁ。』
線路を辿り下に降りると、キレイな桜並木が私達を温かく歓迎してくれる。
さながら幻想的な雰囲気で、零さんにも見せたいなぁと無意識に考えた。
服「桜かーー……。」
不意に服部君が切なげに呟く。
江戸川が「ん?」と聞き返すと服部君は小さく笑った。
服「…いや、桜見るといっつも思い出すんや。8年前の事。」
幼い思い出を服部君が語り、私達は南蝉寺に着きそのまま山門前を通過した。
そして、服部君オススメの湯豆腐屋さんへ続く小路へ進んでいった。
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服「オレは京都の寺を探索してて、寺の格子窓に飛び付いた時や。格子がポッキリ折れてな、床にしこたま頭ぶつけて気絶してしもうたんや。」
服「どんくらい眠っとったか解らへんけど、ふと目ぇを覚ました時。」
そう言うと服部君は黙り、何処か上の空になった。
切なそうに目を伏せる様子は【初恋】を想う時のソレで、私は可愛らしいなと素直に思う。
服「…夢みたいやけど、ホンマの話なんや。いつかまた巡り会えるんか思てな。」
すっかり箸が止まった服部君はしんみりと呟く。
それに江戸川が吹き出し、小さく肩を震わせた。
服「…おい、なに笑てんねん。」
コ「悪い悪い、続けて?」
気恥ずかしそうに頬を染める服部君に、江戸川は箸と器を置く。
服部君はムッとしつつも上着のポケットから巾着を取り出し、中に入ってた小さな透明な玉を江戸川に手渡した。
服「京都に来る時は、いっつも持ってくるんや。」
コ「水晶玉か……どっかで見たことあるな。」
『あ〜…、確かに。』
江戸川の掌を覗き込むと、その水晶玉は特徴的なカットがされている。
形や大きさからして装飾品なのは間違いないだろう。
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作者名:四條暁 | 作成日時:2020年10月8日 23時