◇途方も無い宣戦布告でも ページ38
静かな声は凝った思考を解し、痛んだ胸にソッと染み込む。
幼子に諭すような響きを持たせた円海さんの言葉は、泣きたくなるくらい優しい。
『…円海さんは“死ぬ”のが怖かったりします?』
何となく聞いた質問に、彼は特に驚く様子も見せず「そら怖いわ。」とだけ返した。
円海「逆に怖くないっちゅう方が少ないやろ。死んだらもう誰とも
『ですよね〜…。』
ごもっともな正論に溜め息を吐いた。
そうだ、そんな事は分かりきってる。
「けどなぁ。」と円海さんは顎を撫でながら続ける。
円海「“寿命”があるから人は一瞬一瞬を大切に生きとる。大地を踏みしめて、冷たい雨に打たれても前を向く。」
円海「不死になったら人は命の尊さを見失い、今ある時間を軽んじてまうやろ。それは生き汚いやろな。」
そう言って円海さんがゴソゴソ袈裟の袖から何かを取り出した。
節っくれた掌に乗せられていたのは年季の入った簪だった。
藤の花が描かれたソレを円海さんは大切そうに撫でる。
円海「…短い時間の中で愛する人と出逢う、それは決して無駄な事やなかった。」
円海「“死”に恐れても
そう言って節っくれた手で私の頭を優しく撫でてくれた。
込み上げてくる感情を抑えれず、思わず顔を伏せる。
すると視界がマーブル状に歪んでいき、鼻の奥がツンと痛む。
円海さんはやっぱり驚く様子もなくて、慣れたように涙が止まるまで背中を擦ってくれた。
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それから数分くらい経って、ようやく涙が止まりかけた時に遠くから慌ただしい足音が聞こえた。
服「ここに居たんか!探したで!」
コ「Aさん!ちょっと来て!!」
言わずもがな、それは真実を前にしたであろう
ハンカチで涙の跡を拭い、仕方なく伏せた顔を上げて迷惑そうに眉を寄せる。
『はいはい、今行くよ。』
円海さんに会釈し、私は本堂へ向かった。
例え限られた時間だろうと、私は“その瞬間”まで喧嘩を売り続けてやろじゃないか。
ーー運命が私に負けるまで。
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作者名:四條暁 | 作成日時:2020年10月8日 23時