夕焼けこやけ、陽が暮れる ページ2
赤い夕暮れ時。
帰宅する人々の波を掻き分け、私はその波とは真逆の方へ進む。
中にはあからさまに煩わしげに眉を寄せる人も居たが、気にせず僅かに出来る隙間に身体を滑り込ませた。
ふと、視界の端で見慣れた子供を見つけた。
公衆電話へ懸命に背伸びをして、真っ赤な蝶ネクタイを口元に寄せて何やら楽しそうに顔を綻ばせている。
何となく興味が引かれて奴の元へ歩み寄った。
丁度電話が終わったらしく、受話器を再び背伸びをして掛けようと奮闘している。
『お手伝いしましょーか?』
返事を聞かずに代わりに受話器を掛けてやると、江戸川は僅かながらに嬉しそうな表情を見せる。
コ「Aさん!」
『熱いねぇ〜。恋人にラブコール?』
コ「ばっ、バーロー!そんなんじゃねぇよ!」
顔を真っ赤にして否定するが全く説得力は無い。
『で?どうしたんだよ、不満そうにして。』
そこの自販機で買ったばかりのホットコーヒーを渡しながら尋ねると、どうやら蘭との電話を毛利さんの茶々で早々に切られたらしい。
コ「Aさんはさ、和歌とか知ってる?」
『あ〜…。“あしきひの山路越えむとする君を心に持ちて安けくもなし”……とか?』
【あなたが辛い山路を越えていると思うと、私も気が気でありません。】
と言う意味……だったかな??
首を捻りながら答えると江戸川は心底驚いたとばかりに目を見開いた。
『なんだよその顔。』
コ「いや〜…難なく詠むからさ、Aさんって実はスゴいんだったなぁ〜……っと。」
『ムカつくんですけど。』
悪気なく可愛くない事をほざく江戸川の頬をつねり、力を軽く込めてやる。
コ「い、いひゃいいひゃい!」
間抜けに顔が歪んだ奴が面白く、満足した私は仕方なく離してやった。
『ふはっ……ぶっ細工な顔。』
思わず噴き出すと江戸川はつねられた頬を擦りつつ、しみじみと目を細める。
『……なに?』
コ「…いや。Aさんも良く笑うようになったなぁ〜って。」
嬉しそうに目を細めて優しく笑う江戸川。
それは成長を遂げた幼子を見守る“大人”のよう。
『ガキが生意気言ってんじゃねぇよ。』
気恥ずかしさから江戸川の額を指先軽く弾いてやる。
コ「いてっ。」
不満そうな江戸川をニヤリと笑い立ち上がった。
『ほら送ってってやるから、帰るぞ?』
コ「う、うん。」
好奇心は時に人を愚かにするワケですよ→←設定です!(追記 イメ画をこちらに移しました(^o^;))
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作者名:四條暁 | 作成日時:2020年10月8日 23時