【JUMP】ももいろねずみ。時々みんな。【×JUMP】 (ページ5)

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その日の夜、長年2人で暮らし続けた家を出た。

ぐっすり眠る涼介を起こさないように慎重にベッドから這い出て、僕の痕跡を残さないよう、ありったけの私物を持って。
ほら、立つ鳥なんとやらって、よく言うでしょ。

あまり洋服を持っていなくてよかったとその時改めて思った。涼介みたいに沢山持っていたら、こうして持ち出すことはきっと楽じゃなかっただろうから。

まあ、皮肉なことにそれで済んだのもしょっちゅう涼介の服を借りていたからなのだけど。

大きめのバックパックを1つ背負い、右手の薬指と左手の小指にリングを嵌め、普段滅多につけることのない甘いムスクの香りを身に纏えば、自分が一回り強くなったような気になれる。
けれど現実は、そんな気持ちとは裏腹にちっぽけで弱い僕のまま。だからこうして逃げてきた。

あんなに愛した人が、いつかあの部屋で僕とは違う誰かを愛する未来が容易に想像出来てしまって、そんな日が来たらそれこそ弱い僕は簡単に壊れてしまう。それなら、目の当たりにする前にさっさと逃げてしまうのが得策だろう。

事実、彼が漂わせてきた女性の匂いだけで僕は精神的に力尽きてしまって、今こうして朽ち果てたゾンビのように街の中を彷徨い歩いている。

行き着く宛もないままに最寄り駅へ向かって、出鱈目に押した切符で終電の1つ前に乗り、その切符で行ける限界までただひたすら揺られ続ける。降り立った駅には見覚えがあった。

その所以の1つは涼介が初デートの時に連れて来てくれたレストランが傍にあるということ。窓際のテーブルから見えた夜景は、その夜景に照らされて甘く優しく微笑んだ涼介の顔は、僕の脳裏に鮮明に焼き付いてきっともう離れない。

こんな状態の僕をこんな場所へ導くとは、神様も相当なイタズラ好きだ。少々おイタが過ぎるのではないか、とひとつ説教でもいれてやりたいくらい。

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