噛み付くようなキスをして３ seven (ページ20)

今日:1 hit、昨日:9 hit、合計:55,416 hit

108.嘆願と悪計 …追憶… ページ20

伊野尾side

伊野尾｢お願いします。彼女を帰してやりたいんですっ！どうかお目通りを！｣

争いが各地で勃発し、緊迫した情勢ではあったが、俺は翠を元の世界に帰すべく、バンパイア族の長に｢赤い石｣を貸してくれるよう嘆願した。

｢長は忙しいんだ。お前みたいな下等の妖を相手にしている時間はない。｣

長の部下にしっしっ！とあしらわれ、芳しい返事は貰えなかった。

バンパイア族と九尾狐族は同盟関係を結んではいるものの、昵懇の仲では無い。加えて多方面で紛争が起こっている。それどころではないのは若造の俺にも分かっていた。

しかも、赤い石はバンパイアの宝。貸してもらうどころか長への謁見すら叶わないのでは話にならない。

伊野尾｢あー、もー、どーすりゃいーんだよっ。｣

肩を落とし、考え倦ねていたある日、長の使いだというバンパイア族の男が現れた。

｢例の石を特別に貸してやろう。夕刻にここへ来るように。｣

伊野尾｢ほ、ほんとにっ？！｣

｢ああ。ただ内密にな。バレたら俺も危険なんだ。｣

冷静に考えれば、バンパイア族の至宝を下っ端バンパイアごときが持ち出せるわけもないのだが、焦れていた当時の俺はそこまで頭が及んでいなかった。

伊野尾｢遅いな…。｣

はやる気持ちで指定された場所へ行ったものの、待てど暮らせど誰も来なかった。

伊野尾｢…なんだよ…。揶揄われたのか。｣

もしくは何かトラブルがあったのかもしれない。首を傾げながら仕方無しに、家路についた。

そこでおぞましい光景を見ることも知らずに＿＿＿＿

・