107.運命の逢着 …追憶… ページ19
伊野尾side
____ もう随分昔のことだ。
夕暮れの刻、泉の近くを通った時、見慣れないずぶ濡れの女が倒れていた。
伊野尾「君もしかして人間?」
「あなたは…?えっ、その尻尾は…?」
遭遇したのは人間の世界から迷い込んできたらしい少女。あどけなさは残るものの、凛然とした面差しの美しい娘だった。名前は「翠」といった。
翠「妖の世界だなんて、御伽噺みたいね。」
翠はおとなしそうな見た目とは相反し、肝の座った女だった。妖怪相手に怯むことなく、現状を受け入れた。
翠「九尾狐かぁ。見た目はわたしとあまり変わりない気もするけど。慧は人間と会うのわたしが初めてなの?」
伊野尾「うん。大昔に迷い込んできた人間がいるって話は聞いた事あるけど。」
その頃はまだ九尾狐族もそれなりにいて、俺は家族の元に彼女を連れていった。
争いを好まず平和主義な一族は快く翠を歓迎。帰る方法を一緒に探そうということなった。
翠「もう慧ってば、女子みたいな顔して助平!」
伊野尾「翠こそ、黙ってりゃべっぴんさんなのに、とんだお転婆娘だ。」
住む世界が違う者同士だというのに、俺達はすぐに打ち解けた。
翠「慧の尻尾、ふさふさのふわふわ。素敵ね。」
伊野尾「九本もあると結構邪魔だけどね。夏とかめっちゃ暑いし。」
翠は美しい容姿をしていたが、俺が彼女に惹かれたのはそんな箇所ではなかった。明るくて朗らかで、心に芯を持ってて、しっかりしてて、でもちょっと抜けてて。俺とは違う性格なのに、妙に笑いのツボが似ていて。
うまく説明出来ないのだけれど、気づけば彼女に淡い恋心を抱いていた。
伊野尾「それでバンパイア族が力もう一つの石を持ってるらしいんだ。」
翠「これが対になってる宝石なの?綺麗な青…。」
伊野尾「サファイア、蒼玉ともいうよ。九尾狐の宝だ。」
帰還を望む翠のため、尽力した俺。親切心というより恋情が主だった。翠も翠で献身的な俺に好意を抱いてくれた。
翠「帰りたいけど、帰りたくないな。」
伊野尾「じゃあずっとここに居なよ。俺が守ってあげるから。」
翠「でも、父上や母上が…。」
想いが通じ、幸せな時間を過ごす一方、翠は揺れて惑っていた。妖と人間の禁忌の恋に。
抱きしめた華奢な肩は震えていた。俺は生まれて初めて誰かを愛おしく想うことを知った。
そして、その頃の妖魔界の情勢はとても不安定で、各地で争いが頻発していた。
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作者名:不眠症の羊 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/isut/ano/
作成日時:2020年11月28日 12時