その５ ページ14
『…ぅあ、ここは…？』
パチリと目を覚ます。窓の外はまだ明るく、意識を失ってからそう時間はたっていないのだろう。
「目覚めたか。貴様、名前は分かるか？」
『！？』
側に、男。あ、思い出した、ファンクビート。
「名前は分かるかと聞いている」
『え、あ…A、です』
「ふむ、意識はハッキリしているようだな。ではA、これを飲めるか？」
差し出されたのは湯呑みに入った琥珀色の液体。温かいようで、湯気がほんのり立ち上っている。
「何、毒などではない。貴様の病を治すための薬だ」
『や、病？』
「…あの焼き菓子を食べただろう。あれには中毒を引き起こすものが入っていてな。その中和薬だよ。」
色々と付いていけない、が、こちらを見る隻眼は優しさを帯びている。
『ありがとう、ございます』
湯呑みを受け取り、少しずつ飲む。
ほんのり甘くて、体に少し残っていた不快感が消えるようだった。
「もう少し、安静にしているといい。」
昨日の夜会った時とは全く違う、優しい声。
あぁ、なんだか安心する。
この人はちゃんと医者なんだと思いながら、私はまた微睡みの中に戻っていった。
『全快です。大変お世話になりました！』
夕暮れ、諸々の支払いなどを終えた私は才華楼にて頭を下げていた。
「なんなら一泊と待っていけばいいのに」
『汽車が出てしまうので…』
心配そうにそういうキィ君に対し、切符を見せる。
これを逃すと財布的にも少しキツイ。
「そう無いとは思うが、これ以降は気を付けろ」
『肝に命じます』
そういう彼は、昨夜あった時のような依然としたオーラを放っているように見えた。
『…あ、そうだ。写真を一緒に撮って貰えませんか？』
「写真？」
『はい。良くも悪くも、貴重な体験だったので…』
少し差し出がましいだろうか？
そう思い取り消そうとするも、いいぞとの声が。
少しの恥ずかしさに見舞われつつ、三人で並んで一枚撮った。
『ありがとうございます！ファンクビートさんは、本当に名医なんですね』
「正確には幸医だ」
『それでは。また来たら寄らせてください』
「何かあったらまた来るといい」
『はい！』
帰りの汽車の中、私にしては少なかった写真を見ながら、旅を思い返す。
『…あ』
最後の一枚。三人で撮ったもの。
隻眼で、片腕を失った満身創痍の幸医は、それでも、幸せそうな笑みを湛えていた。
終
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ひつじ(プロフ) - ねこまりおさん» わぁあありがとうございます！鉛姫シリーズの作品が増えていくことを、私も１ファンとして期待してます… (2021年2月14日 13時) (
レス) id: 2dde8895f0 (このIDを非表示/違反報告)
ねこまりお - とっても素敵な作品ですね！鉛姫シリーズなんかは作品数が少ないので嬉しいです。無理をなさらず頑張って下さい！応援します！ (2021年2月13日 18時) (レス) id: b42424beae (このIDを非表示/違反報告)
彼方(プロフ) - ひつじさん» いえいえ！とっても楽しみにしています、少しずつで良いので頑張ってください！応援しています (2021年2月9日 17時) (レス) id: 27a2b67915 (このIDを非表示/違反報告)
ひつじ(プロフ) - 本当ですか!!!大変失礼しました!!ご指摘ありがとうございますすぐ直します!! (2021年2月9日 16時) (レス) id: 2dde8895f0 (このIDを非表示/違反報告)
彼方(プロフ) - オリジナル作品のタグがついてしまっていることと名前の変換がされていないことを報告させていただきます。鉛姫の夢小説が少ない中、その数少ない作品の一つである貴方の作品に私は期待しています。頑張ってください！もし不快に感じてしまわれたらすみません。 (2021年2月9日 0時) (レス) id: 27a2b67915 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ひつじ | 作成日時：2021年2月8日 0時
