【歌い手】シェアハウスでの日常。season３

＊１１０＊「さあ、そろそろ行こうか」 ページ25

灯油さんのステージが、終わった。

私は、隣にいるまふくんにこっそり耳打ちする。

『まふくんごめん、ちょっとお手洗い行ってくるね』

心配そうに首をかしげるまふくん。

「大丈夫？96ちゃんと一緒に行くとか…」
『あ…でも』

苦笑して、96ちゃんのいるほうを見る。

96ちゃんは、ライブを満喫中のようで。

まふくんがつれてこようとしたから、あわててとめる。

『大丈夫っ。盛り上がってるところ悪いし、それに、…連れて行ったら逆に不安なような』
「あー…」

まふくんは動きを止め、仕方なさげに手を振る。

私はそれに手を振りかえし、人ごみを掻き分けて出口へと向かう。

幸い、出口に近いところにいたのですぐに外へ出ることができた。









―――――お手洗いの大きな鏡で、服装を整える。




胸に手をあて、深呼吸。

先ほどの灯油さんの演奏、すごかった。
しゃむくんもすごかったし、そらるさんもきれいな歌声を出していた。
トップバッターの赤飯さんだって、負けてはいない。


ああ、私はすごい人と暮らしているんだ、と。
改めて実感させられた。

最後にもう一度、大きく息を吸って、大きく息を吐く。

さあ、そろそろ行こうか。



お手洗いから出る。







―――――そのとき。





「Aさん、ですね？」
『はい…？』


ぽん、と肩に置かれた手。

振り向くと、…黒いスーツのひとたちが、何人も立っていた。

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