辿って 2 ページ41
大事なものでしょう？
あなたの辿った記録が詰まった大切なものでしょう？
彼が捨てようとしているのはカメラじゃない。
記憶ごと、前世ごと、彼の人生ごと、丸ごとだ。
「ありがと、お母さん」
私はそのカメラを大切に大切に持ち上げて、リビングを後にした。
今すぐにでも電車に飛び乗って彼を追いかけたかったけど、それが無謀だってことはわかっていた。
彼がいなくなったのはもう何日も前の話で、わたしには彼の居場所はおろか、手がかりさえも残されていないのだから。
だけど、いつか私は彼にこれを返さなければいけない。そう、思った。
机の片隅にそれを置いて、私はしばらくそれを眺めてみる。
ぼんやりとレンズにちいさくなった私の影が映る。
ねえ風磨、あなたは一体何を考えてるの？
現れたと思ったら突然またどこかへ消えて。
大切なものをたくさん置いたまま。
だけど目の前にあるそれは、ほんの少し、"彼はまた戻ってくる"という期待を、打ち砕くには十分だった。
きっと彼は本当に、ここにはもう戻ってこない。
落ち着かない心のままカメラを取り上げて、なんとなく電源をつけてみる。
フォルダのマークのついたボタンを押すと、彼が最後に撮ったのであろう海の写真がポンと表示された。
前へ前へ、と遡って行く。
フォルダは相変わらず海ばかりだった。
初めて会った時もそうだった。
驚くくらい、そのカメラが捉えていたのは青ばかりだった。
次へとボタンを押すと、今度は急に画面が青から切り替わって、ポートレイトになる。
そこからは今度はずっと、海をバックに写るわたしのポートレイトが、ずらりと続いていた。
「なに、いつのまにこんなに………」
ボタンを押せど押せど、出てくるのは私が笑ったり、変な顔をしたりしてる写真。
こんなに自然な表情が切り取られた写真を私は初めて見たんだ。
わたし、こんなに思い切り笑ってたんだ。
その次は海を眺めるわたしの横顔。後ろ姿。それからわたしの寝顔。
「これ、ほんとに撮って………」
あの時は冗談だと思ってたのに。
アホ面で眠るわたしの寝顔が何枚も。
こんなのまで………
「わたし、ほんとうに………」
本当に、風磨の恋人だったんだ。
わかっていたけど実感がなかったその事実が、痛いほどに実感された。
本当に、私は彼の恋人だったんだということ。
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mana. - マゼンダさん！もうお話を描かれるのはやめてしまったんでしょうか？とっても寂しいです。いつかまた読める時が来ることを祈ってます！待ってます！！ (2021年8月29日 5時) (
レス) id: bff4af5f5b (このIDを非表示/違反報告)
sooooo - マゼンダさんの作品いつも楽しく読ませてもらってます！続きが気になりすぎます、、頑張ってください！ (2020年4月9日 23時) (レス) id: 0f0f07dd15 (このIDを非表示/違反報告)
愛莉(プロフ) - マゼンダさんのお話大好きです！毎回マゼンダさんのお話が濃くて吸い込まれていきます！！お話書くの上手ですね！いい意味で自然と涙が出てきます！！このお話の続き気になります！頑張ってください！！！ (2019年7月3日 19時) (レス) id: 8f456c3f46 (このIDを非表示/違反報告)
マゼンダ(プロフ) - 有紗さん» お返事遅くなりすみません！わわ、全部読んでくださったんですかありがとうございますすぎます（；＿；）少しでも感動していただけていれば嬉しいです頑張ります…！ (2019年3月14日 0時) (レス) id: f72ec701de (このIDを非表示/違反報告)
マゼンダ(プロフ) - 夜桜さん» お返事遅くなりすみません！更新滞ってしまってますが必ず書ききるのでよろしくお願いします、！ (2019年3月14日 0時) (レス) id: f72ec701de (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：マゼンダ
| 作成日時：2018年12月16日 21時
