she/sea ［Fuma.K］

別れと再会 2 ページ30

眠たい目を擦りながらリビングに出て見渡してみても風磨の姿はない。






「お母さん、風磨は？」





テレビを見ていた母が振り返って気怠そうに返事をする。





「風磨くん？部屋にいたんじゃないの？」



「だいぶ前に出て行ったきりなんだけど」



「さぁ。また海かしらね」



こんな時間に？夜の海に？




「ちょっと見てくる」




気をつけなさいよー、という間の抜けた声を背中に、私は家を飛び出す。





なんとなく、なんとなくだけど。


このまま彼がいなくなる気がして。


私のところから去ってしまう気がして。







海に出ても人影はない。

暗いからよく見えないけど、人の気配がしない夜の海は全て飲み込んでしまいそうに黒かった。






「風磨ー？風磨ーっ！」





返事はない。

代わりに波が私の声をさらって行った。







彼は出て行った。この街を。



漠然と、そんな気がした。







「………どうしたかったんだろう」






別に、ただ泊まる場所がないからうちに泊まることになって。

1週間経った、それだけ。

彼はただ写真が好きな観光客で、私はここに住んでいる1人にすぎなかった。

別に彼はいつか遅かれ早かれ東京に帰るなんて知ってた。






だけど、あんなことを告げて、いきなりいなくなるのって、そんなのないよ。


こんな、名前もつけられないような感情だけわたしの心に残していくなんて、ずるいよ。







ねえ、さよならぐらい言ってからいなくなってよ。

私に何も告げないで、ただの友人でいれていたうちにいなくなってよ。






「俺のこと好きになってよ」







なんであんなこと言ったの。

なんであんなことしたの。

ねえどうして？







パシャリ。







いつかみたいに、いきなりシャッターの音がした気がして振り返る。


そこには長い長い坂が伸びているだけだった。

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