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視線のすぐ下には、俺の胸元で身を縮こませているA。頭1つ分の身長差と圧迫する車内のせいで、Aの髪から香るシャンプーの匂いがダイレクトに鼻に掠める。どうにか気を紛らわそうとしても、片足に当たっているAの柔らかい両腿の感触が気になって仕方がない。…不可抗力、これは不可抗力や。
「……っ」
『だ、大丈夫…？』
「…平気、やけど、動かんといてな」
『うん…ありがとう』
電車が揺れる度に背中にかかる圧迫感がぎしぎしと全身の筋肉を痛めつける。急行電車のせいで、この攻防戦は最寄り駅まで終わらない。
扉に付けた手に力を込め、Aが潰されないようになんとか耐える。俺に心配そうな声をかけると同時に視線を上げたA。顔が、近い。
目が合った瞬間、目を逸らしてしまった。この状況で子犬みたいな表情をされるのは正直耐え難い。
逃げるようにAの背後で流れる窓の外の景色に目を向ける。最寄り駅に近付くにつれ、いつかの記憶が蘇る。あぁ、あっこAと行ったなぁ。あっこの公園もよう野球しに行ったわ。…あのマンションの裏に勝手に秘密基地作ったなぁ。
「あれ、そういえば最寄り駅は変わらへんの？」
『うん。住んでる場所は違うけど、駅は同じ』
「……前の家、今は空き地になってんで」
『……そうなんだ、さすがに何年も経ってるもんね』
Aの声色に寂寞が乗る。寂しそうに笑ったAは両手で抱え込んだ鞄をぎゅ、と小さく握った。
Aが生まれてからこの地を去るまで過ごし、何度も遊びに行ったあの家を思い出す。Aが転校したと聞いた日。俺は夢だと思いたくて、大人がついたタチの悪い嘘やと期待してお前の家まで走って、「売家」の文字を見て涙を流したこと。何で言ってくれなかったんや、と叫んだこと。
時が経ち、今では家の影すらなくただの空き地になったAの家。確実にここにあったのに目に見えない何かに、ただの思い出に変わってしまったあの虚無感を、俺は今でも覚えている。
『……この街も、色々変わったね』
「……物も人も、移り変わるもんやからな」
『シャオちゃんは？』
「ん？」
『シャオちゃんは、何か変わった？』
黒色とは言い難い、少しオリーブ色の混じった茶色の瞳に見つめられる。何かを求めているような双眸は、瞬きの度に俺に問いかけた。
口を開こうとした瞬間、最寄り駅に到着し扉が開いた。暑苦しい電車から降りると、Aはもう俺の方は見ていなかった。
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悠亜(プロフ) - すずらんさん» コメントありがとうございます！有難いお言葉光栄です……あまり派手な話ではないですがこの後もいろいろと2人の心境に変化が現れますのでそちらも是非見て頂けたら嬉しいです！ありがとうございます！ (2020年2月28日 9時) (
レス) id: eb2dbc11ad (このIDを非表示/違反報告)
すずらん(プロフ) - 何から言ったら良いのかわからなくて乱文になってしまうのですがコメント失礼します。好きです。心理描写がとても繊細で手に取るように分かりやすくて好きです。応援させてください… (2020年2月27日 9時) (レス) id: 14859b81d2 (このIDを非表示/違反報告)
悠亜(プロフ) - ユヅルさん» 前作からありがとうございます！前作との差分化を図るのが難しいですが、こちらもこちらで楽しんで頂けると幸いです！ありがとうございます！ (2020年1月19日 18時) (レス) id: eb2dbc11ad (このIDを非表示/違反報告)
悠亜(プロフ) - さいさん» コメントありがとうございます！中々微妙な距離感ですが、どう近付いていくんですかね。私にも分かりません。嬉しいお言葉をたくさんありがとうございます！気長にお待ちください！ (2020年1月19日 18時) (レス) id: eb2dbc11ad (このIDを非表示/違反報告)
ユヅル(プロフ) - わああああ！！前の作品も見させていただいてました…！！！相変わらずの文才…ほんとに尊敬します…！！更新頑張ってください！！ (2020年1月19日 18時) (レス) id: 0f65930547 (このIDを非表示/違反報告)
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