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膝を着いて声をかけると、目の前の少女は長く白い脚をゆるりと動かしながら少し赤くなった鼻をカーディガンの袖で摩った。俺の顔を見ると何度か瞬きをして驚きの表情を浮かべた。
無言が空間を包む。俺も口をぽかんと開け、それはもうアホ面を浮かべているので傍から見たら不思議な空間だと思う。渇いた喉から振り絞って出した声は、少し掠れてしまった。
「……あの、違ったらごめんなんやけど、もしかして……A……?」
『え、あ…Aだけど……もしかして、シャオちゃん……?』
いつか呼ばれていた渾名。暫く聞き馴染みの無かったその名前が、すとんと胸に落ちる。お互いを認識したというのに未だ包まれる沈黙。耳に届くのは外でサッカー部が声出しして走る音と、吹奏楽部の鳴らす楽器の音だけ。
最初に動いたのはAの方で、ゆっくりと姿勢を正しながら立ち上がる。俺もそれに倣って立ち上がると、昔は頭の高さが同じか俺が少し小さいくらいやったのに、今は頭一つ分俺の方が大きかった。
『……久しぶり』
「……偶然、すぎるわ。戻って来たんや」
『あー……戻る……うん、そうだね。そんな感じ』
濁すように返された言葉に違和感を覚えるも、所謂幼馴染と呼ぶべき存在の容姿が余りにも変わっていて、そっちの方が上手く飲み込めなかった。
男の子みたいに短い髪、常に擦りむけていた膝小僧。スカートなんて1度も履いているのを見たことがないし、女の子と人形で遊ぶより俺たちと野球や隠れんぼをするのが好きやった近所の子。俺の記憶の中にあるAは、それが全てやった。
加えて俺が少しばかり女の子のような顔立ちをしていたばっかりに、周囲の友人達から俺は「シャオちゃん」、Aは「Aくん」と呼ばれる始末やったのを覚えている。
女の子扱いされるのが嫌やった俺はそれに反抗して、Aもノリノリで喧嘩をしていた。泥まみれになって泣きべそを浮かべたまま手を繋いで家に帰り、2人並んでよく母親達に怒られていた。毎日、一緒に居た。
『……変わらないね』
「……お前が変わりすぎやねん」
緩く巻かれたウェーブヘアーに、薄く施された化粧。短いスカートから惜しむことなく伸びた白く長い足、ぶつかったせいで乱れた髪を直す女の子らしい所作は、いつかの面影を完全に消していた。
俺の知っているAは、どこにも居らんかった。
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悠亜(プロフ) - すずらんさん» コメントありがとうございます!有難いお言葉光栄です……あまり派手な話ではないですがこの後もいろいろと2人の心境に変化が現れますのでそちらも是非見て頂けたら嬉しいです!ありがとうございます! (2020年2月28日 9時) (レス) id: eb2dbc11ad (このIDを非表示/違反報告)
すずらん(プロフ) - 何から言ったら良いのかわからなくて乱文になってしまうのですがコメント失礼します。好きです。心理描写がとても繊細で手に取るように分かりやすくて好きです。応援させてください… (2020年2月27日 9時) (レス) id: 14859b81d2 (このIDを非表示/違反報告)
悠亜(プロフ) - ユヅルさん» 前作からありがとうございます!前作との差分化を図るのが難しいですが、こちらもこちらで楽しんで頂けると幸いです!ありがとうございます! (2020年1月19日 18時) (レス) id: eb2dbc11ad (このIDを非表示/違反報告)
悠亜(プロフ) - さいさん» コメントありがとうございます!中々微妙な距離感ですが、どう近付いていくんですかね。私にも分かりません。嬉しいお言葉をたくさんありがとうございます!気長にお待ちください! (2020年1月19日 18時) (レス) id: eb2dbc11ad (このIDを非表示/違反報告)
ユヅル(プロフ) - わああああ!!前の作品も見させていただいてました…!!!相変わらずの文才…ほんとに尊敬します…!!更新頑張ってください!! (2020年1月19日 18時) (レス) id: 0f65930547 (このIDを非表示/違反報告)
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