【d!】いつか、友達だったきみ【sha】

27 ページ28

「──おい1年遅れてんぞ！！ちゃんと声出せ！！」

怒号にも近い監督兼顧問の大声が階段に響く。立夏も過ぎて暦上では夏が始まったものの、夏前に訪れる梅雨のせいで練習は室内での筋トレや階段ダッシュが増えた。

入部したばかりの当初より随分と汚れが増えてきたユニフォームの袖で汗を拭う。アンダーアーマーが汗と湿気で肌に張り付いて気持ち悪い。

肩で息をしながら踊り場で息を整え、監督からの指示を待つ。林間学校の余韻に浸る暇もないまま、毎日練習、練習、練習。

積み重ねの努力のおかげか一軍にも選ばれ、練習の密度は増していく一方。試合前のピリピリとした雰囲気は嫌いじゃないが、そろそろAに会いてぇ。癒されてぇ。

長い練習が終わり、見慣れた夜道を歩く。最初は軍勢で歩いていたのに気付けば1人で帰路に付く。ふと横を見れば、Aを抱きしめたあの公園。

「……うわー、会いたなってきた」

イヤホンで流していた音楽を止めて、Aに電話をかける。数回のコール音のあと、はいもしもし〜という気の抜けた声が聞こえた。

「よ、シャオちゃんですぅ」
『練習終わったの？お疲れ様。どした？』
「いや、会いたいなーって思って」
『な、え、あ、はい』

明らかに動揺した声が機械越しに聞こえて吹き出してしまった。耐性無さすぎやろ、おもろ。何で敬語やねん。

『……それが、素直に生きるってことですか』
「そうや？会いたいって思った時に会わな」
『はえ〜……陽キャの塊……』
「考えてみ？今の俺らって会おうと思えばすぐ会える距離に居んねんで？」
『た、確かにそうだけど……』
「ってことで今からお前ん家行きまーす」
『え！？マジで来るの！？ちょっとまっ──……』

有無を言わさず電話を切ってAの家に方向転換する。これをロボロが聞いたらなに彼氏面してんねんって呆れそうやなぁ。

「……まぁ、彼氏面上等よな」

あーあ、俺だけ見てくれたらええのに。
限界まで体力を絞りきった身体に加えて重い荷物、先程まではずるずると進んでいた足取りが何故か軽く感じる。

疲れた、眠い、腹減った、だるい、そんなマイナスな言葉ばかり考えてた脳みそもいつの間にか会うの久しぶりやな、今日何してたんやろ、もう飯食ったんかな、会いたいって思ったんは俺だけなんかな。と浮き足立っている。

あの曲がり道を曲がれば会える。会えるときにたくさん会っておきたい。俺の我儘にどうか付き合ってくれ。あと、5分で会える。

28→←26

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す