シェアハウス！ (ページ20)

今日:1 hit、昨日:3 hit、合計:32,034 hit

▲ 2 ページ20

いやだと叫んだニノの様子は明らかにおかしかった。
「え？」と思わず声がこぼれて、ニノへにじり寄る。

「ニノ･･･？ねえっ、ニノ！」
「やめ･･･、おおのさ、こっち来ちゃダメ･･･っ！」
「何言ってんの？！っちょっと！」

ソファの上でおれから逃げ回るニノは、尋常じゃない顔つきをしていた。
なんかおかしいってことは、きっと誰でも分かる。

「やだ、やだ、やだ･･･っ、やめておねがい･･･っ」
「ニノ、ねえ落ち着いて！」

こわい。
何を言っても聞き入れてくれないニノが怖い。
おれを見て怯えたように真っ青で、目がフルフルと揺れていた。茶色い瞳には、いっぱいいっぱいに涙が溜まってる。
その目は、確かにおれを見ているのに、全くおれを見ていなかった。

「やだぁ･･･っ、やめて･･･、」

おれを通して、何か別のものを見てるんだ。

そう思って、一旦距離を置く。ニノを見たまま、一歩ずつゆっくり下がった。
ニノは必死に息をして、どうにか自分を落ち着かせているように見えた。「あぁ･･･あ･･･」と自分の体を抱きしめながら震えるニノを、いますぐ包んでやりたいのに、それができないもどかしさに唇を噛む。

「･･･おれの声、きいて。」

ふるっと肩をふるわせて、まだ涙を堪えた瞳がこちらを向く。
よかった、声が届いた･･･。

「ゆっくり深呼吸しよ？･･すって、はいて、･･･ゆっくり、ね？」

おれの声に倣って、とぎれとぎれの息をどうにか落ち着かせようと呼吸をしてくれた。
胸に両手を当てて、一段と細くなったように思える体を振るわせて、ニノは必死に呼吸をしようとしている。
そんなの、･･･見てるだけしかできないのがどんなにつらいか。

「ニノ･･･」

そばに行きたい。
抱きしめたい。
言葉をかけたい。
救ってやりたい･･･！

一人で苦しさと戦うニノに、もう一度一歩近づくと、今度は受け入れてくれたようだった。

震える右手が、こちらに伸びる。

「おおのさん･･･っ」

小さいけど、確かにおれの名前を呼んだ。･･･ニノが、おれを見てくれた！
頭が真っ白になるくらい必死に、この近い距離を急いで、ニノの右手をつかんだ。･･･つめたい、ふるえる丸い指先。

そのまま手を引き、ソファの上でニノの体を抱きしめる。強ばって、堅くなっているニノの緊張が解けるように、やさしくやさしく声を掛けることを心がけた。
ニノは、かわいそうなくらい震えていた。