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「Aちゃん、そのことなんだけど…。」
ふと湧き上がった自分の気持ちに戸惑っていると、
申し訳なさそうな顔をする風磨が口を開く。
『何?』
「紗絵ちゃん、部屋見つけたって。」
『……うん。よかった。』
「岸と紗絵ちゃんの職場どっちにも近くて、セキュリティも万全で、家賃も手頃なところが。で、ちょうど住人の人が退去するらしくて一つ空きできたけど。」
『うん。』
「入居できるのが、その、来月から…らしくて。」
『え?』
風磨が話し終えるのと同時に、私たちのアパートに到着する。
少し暗い顔をした風磨が駐車場に車を停めて、エンジン音が消えてわたしたちに流れる空気が静寂に包まれる。
「約束は一ヶ月だったし、Aちゃんに嘘をついて、戻るフリはできたけど、まぁ、どうせバレるし。」
『…確かに。』
「っていうのは、言い訳で。」
『え?』
「まだAちゃんとの生活続けたいっていうのが本音。」
『風磨…。』
シートベルトを外して、こちらに体を向けた風磨はいつになく真剣な表情。
薄暗い車内に月明かりに照らされているからか、余計いつもより大人っぽく見えて、いつもとは別人みたい。
「……もう少しだけAちゃんと一緒にいてもいいですか?」
風磨の真っ直ぐな言葉に、わたしの心拍数は、徐々に早く大きくなっていく。苦しくなるくらい。
今、何か話したら声が震えそうで、わたしは首を縦に振る。素直じゃないわたしができる精一杯の自分の気持ちの伝え方だった。
わたしの返事に、風磨は目を細めて微笑む。
“嬉しい”っていう風磨の気持ちが全身から伝わってきて、こっちが恥ずかしくなるくらい。
でもわたしも。
風磨との生活がもう少し続くってことに、
本当は内心飛び上がるくらい嬉しかったんだ。
.
.
“ 小松、あの男と一緒に住んでいるの?”
.
.
まさか、一番知られたくない人にバレてしまうなんて。
このときのわたしはまだ知らない。
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作者名:舞子 | 作成日時:2022年1月27日 21時