素直になれない私たちは。2 (ページ44)

今日:2 hit、昨日:28 hit、合計:123,001 hit

94 ページ44

＊

『それ、もしかして今日のパンフレットですか？』

　

おにぎりを食べ終えて、研修のことや中島さんの説明会のことを話していると、ふと、中島さんのバッグから覗く冊子が目に入る。

「見る？」と差し出されたパンフレットには大きく中島さんが写っていて。

「恥ずかしいな」なんて照れる中島さんだけど、おそらく不意打ちであろう仕事風景の写真にそれはそれはもう完璧に写っていた。もうこの人はプロだ。

『ベンチャー企業、増えていますね〜。』

「そうそう。最近はこの企業が力つけているみたいだよ。」

他のページもパラパラとめくっていると、まだ起業して数年の民間会社が何件もあった。わたしたちの時代は大手が人気だったけど、今はベンチャーもたくさんの人を募集しているんだなぁ。

『え、この人社長？若っ！！』

「あ、この企業、先週うちの近くで開催した説明会のとき隣のブースにいたんだよ。確かIT関係みたいで、この人は二代目らしい。」

『へぇ〜。二代目でこの年商ってことは初代は相当やり手だったんですね。』

「らしいよ。つい最近交代したばっかで社長直々説明してたけど、若さパワーが眩しかった(笑)」

他にも金融、福祉、医療、美容などなど、様々な職種の企業が載っていた。知らないだけでこんなにたくさんの企業に溢れているんだなぁ。

中島さんから企業説明会の話を聞いていると、なんだか自分の就活時代の記憶が呼び戻されて。懐かしいけど、もう戻りたくないな、とかいろんな感情を思い出した。

「俺さ、公務員と商社で当時迷ってたんだよね。」

『え、そうなんですか？』

「結局こっちを選んだけど、結構肌に合ってるからあのときの決断は間違ってなかったってしみじみ思うよ。」

『商社も中島さんっぽいですけどね。働いている姿が想像できます(笑)』

「そう？でも何より小松と働けて、今隣に座ってることが選んでよかったって思う何よりの理由かな。」

そう、サラッとかっこいいことを言って、笑顔でわたしの顔を見る中島さん。

唐突に心臓を揺らされてびっくりして固まるわたしの姿を見て、中島さんはまた「ははっ」と笑う。

『もうっ…！！中島さんまでからかわないでください！！』

「“まで”？」

『あっ、いえ、』

「からかってないよ。こんなに立派に成長した小松が見れて俺本当に嬉しいんだよ？」

そう微笑む中島さんの表情に、わたしの早まる心臓は当分抑えることができなさそうだ。