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“ 好きだよ、Aちゃんのこと。”
そう言って、いつもの余裕そうな表情を浮かべて、
彼はわたしにそう言葉を送る。
『…嘘、つき。』
まるで「ご飯が美味しい」みたいなノリで
何の躊躇いもなくそう告白されたわたしは
なんで返せばいいかわからなくて。
絞り出した答えが、自分でも情けなくなるくらい稚拙。
そんなわたしの言葉に、彼は眉ひとつ動かさない。
ただ真っ直ぐ、わたしを見つめるだけ。
『……もしかして、夢?』
手を伸ばしても、全くわたしの指に触れない彼の身体と、
うっすら透ける自分の身体に、ここが現実世界ではないと気付く。
夢の中で夢って気がつくなんて、わたしはとことん夢がない。
ディズ○ーランドでミ○キーの中を見たような気分だ。
『風磨、わたしのどこが好きなの?』
夢だって思ってしまえば、
なんだか悩んでいるのがバカみたいに思えて。
わたしはさっきの彼の言葉に、改めてそう聞き返す。
夢の中の風磨は一体何を考えているんだろう。
夢とはいえ、少しでも、彼の考えていることが知りたかった。
“ 全部。”
『ぜ、ぜんぶ…?』
“ そう、全部。”
『…なにそれ、現実の風磨と一緒じゃん。そうやってはぐらかす。』
わたしがそう皮肉を溢すと、彼はお腹を抱えて笑う。
あまりに無邪気に声を上げる彼の姿を見ていると、
なんだかわたしもおかしくなって、きつく締めていた唇が自然とほどけて、彼と同じ表情にいつの間にか変わっていた。
“ Aちゃんの笑ってる顔、俺すっげー好き。”
『はっ…?』
“ なんて、現実で言ったらAちゃん、困っちゃうよね。”
そんなことを言う風磨が困ったように眉毛を下げて笑う。
でも、彼の問いに、わたしは全力で首を横に振った。
「え?」とわたしの行動に戸惑う風磨。
いいや、夢なら言っちゃえ。なんて、現実世界では存在しないわたしが夢の中のわたしの背中を押す。
『わたしも風磨の笑顔、すっごく好き。』
少し恥じらい、もあったけど、どうせ夢だしって考えると、
素直じゃないわたしの心が、急に軽くなって弾けたみたいに軽快に言葉を紡ぐ。
“ なんだ。両思いじゃん、俺ら(笑)”
そう言って、くしゃっと笑う風磨は今まで見たことないくらい心の底から嬉しそうに微笑んでいて。
一瞬、花が咲いたのかと思ったくらい。
後ろに咲く桜の方がまるで風磨を引き立てていると錯覚させるくらい彼の笑顔は輝いて見えた。
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作者名:舞子 | 作成日時:2022年1月27日 21時