素直になれない私たちは。2 (ページ27)

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落ちた、と認識したときにはもう体は完全に椅子から離れていて、恐怖からわたしは強く目を閉じる。

「…っぶねー。」

頭を打ったと思ったら、床に落ちたのに痛くない。

固く閉じた目をパッと開けると、わたしの視界は風磨で埋め尽くさられていた。

「だから言ったじゃん。もー、これくらい頼ってよ。俺の方が背高いんだから。」

『ご、ごめん…。』

わたしの頭は彼の手で守られていて、

片方の腕はわたしの腰を支えてくれていた。

「大丈夫？怪我してない？痛いところない？」

『うん…、ありがとう。』

風磨こそわたしの体重全部支えて痛くないのだろうか、
そう聞こうと思って起きあがろうとしても、彼は力を緩めてくれない。

『…近い。』

「ん？ごめん、Aちゃん可愛くて見惚れてた。」

出た。こういうときでも彼は彼のまま。

わたしは彼とのこの距離にうるさい心臓が聞こえるんじゃないかってヒヤヒヤしているのに。

相変わらず戸惑うわたしを見て楽しんでいるみたいだ。

『わかったから。早く離れて。』

「嘘じゃないって言ったら？」

『は？』

「今の言葉、本気って言ったらAちゃん信じてくれる？」

彼からスッと笑顔が消えて、いつになく真剣な表情を見せる風磨に不覚にも胸が一段と大きく鳴る。

何言ってるの？今までそんな顔したことないくせに。

でも、押し倒された状態で、彼は腕は力を緩めてくれなくて。

身動きが取れないわたしは彼から目を逸らすこともできない。

「その気になれば、このままキスだってできちゃうよ？俺。」

見たことのない真っ直ぐな顔で、聞いたことないような甘い声で、

わたしの耳元で彼はそう囁く。

　

初めて、わたしの知らない彼の姿を見た瞬間だった。