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「え、泊出張?」
風磨に作ってもらったご飯を食べながら、一応、遅くなった理由を話していると、突如言葉をぶった斬る風磨。
『うん、だから来週末は家空ける。』
「そっか。寂しいなぁ〜。」
『いや、一日じゃん。』
「え〜、Aちゃん冷たい。」
ご飯を食べながら話していると、いつの間にか元どおりの彼に戻っていて、いつもみたいに「はいはい」と適当にあしらうわたし。
昨日も思ったけど、風磨のごはんすごく美味しい。
岸さんと住んでいるときは岸さんがご飯作ってるって聞いてたから自炊とかできないと思っていたけど、わたしより全然上手じゃん。
「研修はAちゃんだけ行くの?」
『うん。あ、でも、別会場で中島さんも仕事あるみたいだか途中までは一緒には行くよ。』
「ハァ?」
わたしの一言にお茶碗とお箸を持っていた彼の手がピタリと止まる。
『えっ、なに…?』
「あのイケメンと泊まり?」
『いや言い方…。』
「ホテルは?同じ?」
『職場が取るから多分そうなると思うけど。』
「えー、やらしい。」
『あのね、こっちは仕事で行くんだから。』
なんで風磨がそんなこと気にするかわからないけど、あのニコニコ風磨が確実に嫌そうな雰囲気を醸し出している。
唇を尖らせて意味もなく箸をカチカチして、「ふーん、そっか、そうなんだ」なんてつぶやいている。
「泊ってことは荷物いっぱいあるよね?俺、朝車出すよ。」
不貞腐れていたはずなのに、何かひらめいたのか急に顔がパッと明るくなる風磨は、意外な言葉を口にした。
『え?風磨車持ってるの?』
「うん。」
『へ、へぇ…。』
「ニートのくせにって顔してる(笑)」
『し、してないよ…!!』
「Aちゃんは嘘が下手くそだなぁ(笑)」
そう言って彼は目の前で楽しそうキャッキャ笑い始める。
そんな無邪気な顔して。さっきまでわたしが帰ってこないかもって不安がってた彼が幻だったんじゃないかって思いそう。
でも、徐々に表情が柔らかくなっていく彼に、わたしも心が軽くなっていくのも事実だった。
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作者名:舞子 | 作成日時:2022年1月27日 21時