05.天使の寝顔と肌の香り。/S ページ6
地元の道の駅に寄って、キノコ汁であったまってから
スタッドレスタイヤに履き替えて、雪と氷が混じる道路を走っていく｡
さっきまで大騒ぎだった年少組は腹が膨れて眠くなったのか
すやすや穏やかな寝息を立てていた｡
｢んふふ、可愛い…｣
バックミラー越しに後部座席を覗くと
智君が幼い印象のその顔に、柔らかい笑みを浮かべていた｡
｢潤の寝顔、可愛いでしょ？｣
｢俺が言ってるのはニノの寝顔｡
睫毛長くて、あどけなくて、ちっちゃい頃と変わんないんだもん｡
憎まれ口叩いてる時も可愛いけど、寝顔はホント天使みたいにかぁわい｣
｢なによ、大ちゃん｡
ならニノちゃん、何してたって可愛いってことじゃない｣
｢んふふ〜｣
満足そうにまた笑うと、
かくんと揺れたニノの頭をそっと抱いて
智君は自分の肩に引き寄せる｡
｢気持ち良さそうに寝てんのに、起こしたら可哀想だもんね｡
ニノには俺の肩貸してあげる｣
｢溺愛だな〜｣
｢翔君ほどじゃないよ｣
｢まぁおれが潤の隣なら膝枕だな｣
｢ホラ、二人とも!
静かにしてあげないとニノちゃん達起きちゃうでしょ？｣
ウィンカー出しながら、雅紀が低い声でおれと智君を制した｡
暫くの静寂の後、智君がニノの黒髪に頬を寄せ、すっと目を細めた｡
｢どうしたの？｣
｢いや…、ニノってホントに甘くていい匂いするなぁって思って……｣
｢……掛け軸の一件以来、強くなってるよね？
ニノちゃんの肌の香り｣
｢……うん｣
ニノは神代に生きた、
五穀豊穣の女神、
豊かさの象徴でもある彼女の、
あらゆる体液は勿論、肉や髪の毛、骨に至るまで
ニノの全てがオレ達物の怪にも豊かな妖力を与えてくれる｡
｢智君、どういうことだと思う？｣
｢なんのこと？｣
｢ニノは確かに
だけど潤に襲われるまで、智君や雅紀が人間じゃないことも全く気付かなかったんだろ？
そういう意味では、普通の人間と同じじゃなかったの？｣
｢そんなの、俺が知るワケないじゃん｣
人間の臭覚では感じ取ることのできない、肌が纏う香り｡
掛け軸の女の一件以来
まるで霊力でも増したかのように
ニノが放つソレは、以前にも増して強くなっていた｡
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作者名：あさり
作成日時：2014年12月14日 20時
