43.真夜中の攻防2/A ページ44
目の前の急展開に思考がついていかない｡
物静かな於呂さんに翔ちゃんが突然煙管を打ち込んだだけでも面喰ったのに｡
それを受け止め、あまつさえ於呂さんが人間じゃないことにもパニクッてる｡
しかもよく分かんないけど
ニノちゃんに危険が差し迫ってるってこと？
於呂さんの口調からして
この人がニノちゃんに危害を加えるようなことはとりあえずなさそうだけど
翔ちゃんも大ちゃんも於呂さんへの警戒はマックスだ｡
｢……寂しいなぁ、二人とも｡
何があったか知らないけどさ｡
オレ、仲間外れみたいじゃん｣
栗色の大きな瞳に最大の警戒を乗せたまま
於呂さんをじっと見据え、翔ちゃんはオレに向き直ることなく小さく頷いた｡
｢おれも食事の時にちょろっと智君から聞いただけだよ｡
後でお前と潤には話しておこうと思ったんだ｣
｢そのつもりはあったんだ｣
｢無論だ｡
今回の旅行、ニノは心から楽しみにしてたしな｡
血の繋がりはなくても、おれも子の親だ｡
あの子の気持ちは大切にしてやりたかったから｡
なるべくニノに、水面下でおかしなことが起こってるのは感ずかれたくなかった｣
｢だからラーメン？
眠ってる年少さんを残して、オレを大ちゃんと連れ出そうとしたってワケね｣
｢あぁ…、微かに部屋の外で生き物の気配がしたからな｣
オレも於呂さんの無機質な瞳をじっと見る｡
感情を読み取れない瞳に、どんな真実を隠しているのか｡
オレも見据えたその隣で
少し乱れた浴衣の合わせをそっと直すと
理知的な瞳に艶を乗せた翔ちゃんが、紫煙をゆっくりと吐き出した｡
……普段は残念溺愛ママの、ふと見せる艶やかな仕草に、ゾクッとくる｡
男の恰好でもコレだもの｡
女版翔ちゃんならそりゃ簡単に、人間の王達を陥落させ手玉に取れたワケだ｡
翔ちゃんの長くてカールした睫毛が微かに震える｡
赤い唇が引き上がり、窓の外に浮かぶ冴えた月を見つめると
少し潤んだ瞳に恍惚の表情を浮かべた｡
｢本当に明るい月だな｡
冬の冴えた月は、物の怪といえど美しさに魅了される……｣
赤く熟れた瑞々しい果実のような唇が、また紫煙を吐き出す｡
於呂さんに極上の笑みを浮かべると、翔ちゃんは軽くウィンクをした｡
｢なら今宵はこの明るい月明かりの下で、お前に与えられた数少ない情報を元に｣
｢謎解きゲームでもしますか｣
目の前の於呂さんはただ静かに微笑むだけだった｡
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作者名：あさり
作成日時：2014年12月14日 20時
