31.黒い影は静かに蠢く2 ページ32
女の髪から雫が滴り落ち、床を這う無数のヒル達がザァ…と音を立て退く｡
長細くヌメヌメした体を女が指で撫でると、ヒル達は白い肌を這い、女の首に纏わり付いた｡
｢そうだ、スサノオ｡
可愛いこの子達からまだ報告があったの｡
お前が切り刻んだ筈のアイツが
部屋に結界を張って、自分の力であの女を我らから隠していたみたい｣
｢……無駄なことを｡
ですが｡
これで役者が揃いましたね｣
｢えぇ……
あの男にも聞きたい事があるもの｡
お前が奪った筈の天の叢雲を、一体何処へ隠したのか……｣
浴槽から上がり美しい裸体を晒した女が、弟と呼ぶ男に両腕を伸ばした｡
男はごくごく当たり前に彼女を抱きあげると、額に優しく口づける｡
｢人の手に渡った筈の叢雲は、天智天皇の御代に一度、新羅人により盗難にあっています｣
｢それは人間達が自分達に都合のいいように解釈した記述でしょう？｣
彼女は男の胸に頬を寄せると、それは可笑しそうにクスクスと笑い出した｡
｢実際はあの女に忠誠を誓った元の守護者がしたこと｡
熱田神宮に眠る剣は真っ赤な偽物だわ｡
お前に殺され、死して尚その体をアマノハバキリで切り刻まれ、尾に隠していた叢雲をお前に持ち去られたアイツが……｣
｢
大人しく隠れていれば殺さずにいたものを……
元の主人の肌の香りに誘われて、のこのこ出てきたという訳ですか｣
女は愉快そうに男の頬に口づける｡
｢そういうことね｡
でもスサ…
気をつけた方がいいわよ？
あの女、どんな目的で烏なんて従えてるのか知らないけど……
新しい守護者を自分の傍に置いているわ｡
あの男の子、結構タイプなの｡
随分可愛い顔した男の子だったけど、
纏った妖気は『可愛い』なんて言える代物ではなかったわね｡
その昔、
あの子いとも簡単に、黒い羽根でヒル達を皆殺しにしてしまった……｣
｢そんなにソイツが気に入ったなら、その男、全部が終わったらヒルコ姉様に差し上げます｡
ですからこれからも僕に協力して下さいね？
さぁ…、ベッドにお連れ致します｣
｢えぇ…、スサ……｣
赤い女の唇に男の唇が重なる｡
クスクス笑い合う二人の後を、
床に粘液の痕を垂らして、無数のヒル達が追いかけた｡
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作者名：あさり
作成日時：2014年12月14日 20時
