28.昔々の御伽草子1/S ページ29
｢さて、そろそろ話を戻そうか｡
於呂さん他には？
他にどんなこと言ってた？｣
腕組みした智君がぽつぽつとまた、事の成り行きを喋り始める｡
ニノが浴場で倒れた後、さかんに腕を気にしてたこと｡
部屋に戻るなり絶叫を上げ苦しみだし
腕を確認すると無数のヒルが群がってたこと｡
ニノに頼まれたおつかい済ませて戻ってきたら、部屋に於呂さんがいたこと｡
そして於呂さんがおれ達の部屋に結界を張り、誰かからニノを守ろうとしてたこと……
｢じゃあニノはそのヒルのこと視えてなかったの？｣
｢うん…｡
その後もちょっと妙なことがあったんだけど…｣
｢妙なこと？｣
｢いや…、なんでもない｡
とにかく於呂のヤツ『ヒルコのヒルに見つかった』って言ってた｣
｢ヒルコ…？
ヒルコってあの蛭子のことか？｣
｢翔君？
“ヒルコ”とかってヤツのこと知ってんの？｣
｢神話の世界のハナシだよ｡
古事記や日本書紀に載ってる｡
……その昔、イザナギとイザナミと呼ばれる神様がいました｡
この二人は日本の創造神｡
国を産んで、日本を作った神様ね？
で、子作りの際に女神であるイザナミが男性神であるイザナギを誘ったことから、不具の子が産まれた｡
それが蛭子｡
イザナギとイザナミは不吉な子供とみなし、産まれてきたヒルコを自分達の子供とはみなさず、葦で作った舟で流してしまったと言われてる｡
……可哀想に｡
不完全な忌子だったヒルコは、最初からいなかったことにされたんだよ｡
古事記に載ってるのはここまで｡
でもその後人の手に拾われて、ヒルコは“えびす様”になったなんていう、民俗信仰もあるんだけどね｣
｢へぇ!
翔君、よくそんな難しいこと知ってんな!｣
｢これでも日本史を教えてますからね｡
専門分野ではないけど、知識としては知ってますよ｣
ニッコリ笑ったおれに、智君は目をキラキラと輝かせた｡
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作者名：あさり
作成日時：2014年12月14日 20時
