22.雪うさぎとコーヒー牛乳/N ページ23
しん…と静まり返った一人の部屋｡
外で雪が降り積もる音まで聞こえてきそうな静寂の所為か
智が部屋を出て行ってから
やけに時間がゆっくり進んでる様な気がする｡
｢アイツ遅くない？
はぁ…、ヒマだなぁ……
なんか面白いテレビでもやってないかなぁ……｣
黒塗りの立派なテーブルに、きちんと揃えられたリモコンに手を伸ばした時
……コンコン!
ノック音が耳に響いた｡
｢やっと戻ってきた…!
……ったく、やけに遅かった……｣
ぼやきながらドアを開けると
そこに立っていたのは智じゃなくて
｢あれ？
於呂さん…？
でしたよね…？｣
部屋係の於呂さんが神妙な顔して
｢このたびは申し訳ありませんでした｣
オレに深々と頭を下げていた｡
・
｢ちょ、ちょっと…
於呂さん、いい加減頭上げて下さいよ｣
於呂さんは部屋に入った後も
畳みの縁に三つ指ついて、頭を下げたまま顔を上げようとしてくれない｡
｢いえ…、当館の露天風呂で、お客様がご気分が悪くなったとお連れの方にお伺いして……
本当に申し訳ありません｣
｢いや…、オレが長湯し過ぎてのぼせただけで、当然、旅館に落ち度があったワケじゃ…
とにかく顔上げて下さい!
これじゃ話、出来ないじゃないですか!｣
｢本当にすいませんでした……
お詫びにお客様がお飲みになりたがってると伺ったので……｣
於呂さんが持ってきたおぼんの上には、
お目当てのコーヒー牛乳と
南天の実と葉で作られた、純白の雪うさぎ｡
｢この雪うさぎ、オレに…？｣
｢えぇ、すぐに溶けてしまうと思いますが、少しでもお楽しみ頂ければと…｣
｢んふふ、かぁわい｣
指先でちょこんとまぁるい頭を触ると、肌に雪の冷たさが広がる｡
まだ火照りの残る体に、波紋のように広がっていく冷気がなんだか凄く心地よかった｡
｢お客様、どうぞ｡
よかったらこちらもお飲み下さい｡
勿論、当館のサービスです｣
｢あ…、どうも｣
よく冷えたコーヒー牛乳の瓶を手渡され
喉が焼けるように乾いてたのも手伝って、
甘みの強い液体を、一気に流し込む｡
｢ふぅ〜!
あー、コレ美味しい!｣
｢お喜び頂いて何よりです｣
一重の切れ長な瞳に、ほっとしたような
柔和な笑みが浮かぶ｡
クールな印象の於呂さんの優しい笑みに
｢……本当に美味しいです｡
於呂さんっていい人ですね｣
オレも釣られて微笑み返した｡
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作者名：あさり
作成日時：2014年12月14日 20時
