01.やってきました、温泉旅行/A ページ2
｢あ、雅紀、そこ左ね？｣
｢りょーかーい｣
ナビと自分の膝に置かれた地図で、
翔ちゃんが目的地までの経路を確認しながら
運転してるオレに指示を出す｡
隣のイケメた
宿泊先の温泉旅館の情報を書いた黒革の手帳だ｡
｢これでなにもなければ現地到着予定が15：30、部屋で少しゆっくりしたとして、16：30から入浴可能だからそこでまず旅館の風呂を楽しもう｡
効能は筋肉痛、神経痛、リウマチ、肩こり、疲労回復、その他諸々…
100％掛け流しの天然温泉で、雪見しながらの露天風呂がこの旅館一番のオススメだそうだ｡
その後、夕食は18：30からで桂の間、
風呂と食事が最高だってネットの口コミでも評判の宿だから、こりゃ期待できるぞ｡
えーと、酒はここらへんで有名なのは……｣
｢ちょっとちょっと!
翔ちゃんストップ!!｣
｢はい？｣
｢なんなの？
本当はアナタ大学教授じゃなくて旅館の人？
なによその詳細情報!｣
ククッと喉を鳴らして笑いながら、
翔ちゃんは運転するオレにドヤ顔して見せる｡
｢当前だろ｡
旅行を楽しむ為には、事前の下調べと緻密なスケジュール管理が絶対だからな｡
『情報を制する者は世界を制す』、だ｣
……世界って｡
三泊四日の温泉旅行で
なんでそんなスケールの大きなハナシになんの？
翔ちゃんてさー
黙ってたら美人で知的で完璧なのに。
ちょっと妄想癖入ってるんだよね。
そこが残念なカンジなんだよなぁ｡
まぁオレ的には？
おちゃめでカワユスで
翔ちゃん最大の萌えポイントでもあるんだけどね｡
なんていうか、つっついてやりたくなるっていうか｡
ついつい弄り倒したくなるっていうか。
｢雅紀、危ないだろ!
おれの顔じゃなくて前見ろよ!｣
｢あ、ごめんごめん｣
思わずまじまじと助手席の翔ちゃんを見つめてたら、慌てたその人に叱られた｡
後部座席の三人に聞こえないよう
声のトーンを落した翔ちゃんの、小さな声が鼓膜を揺らす｡
｢ったく、後ろにはちゃんと他の命も乗っけてんだからな｡
……特に事故なんて起こして旅行にケチがついたら、楽しみにしてたニノが可哀想だろ？｣
｢……うん｣
いつもなら飄々としてワケ知り顔の大人を装ってんのに｡
バックミラーでニノの顔を確認すると
無邪気な笑み浮かべて
潤君の尻尾をもふももふしていた｡
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作者名：あさり
作成日時：2014年12月14日 20時
