ぼくらのおうち｡4～Mｙ sweet home～/気象ﾊﾟﾛﾃﾞｨ (ページ7)

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37.男の本分/N ページ7

こんなふうに牡丹さんを蘇らせたのは智｡

朽ちた絵に色を与え

失われた輝きを与え

瑞々しいまでの息吹を取り戻させたのは

牡丹さんの想い人とそっくりな智｡

智は、絵師だから｡

人間じゃないけど

描くことを誰よりも大切にしていて

誰よりも愛する絵師だから｡

ひと筆なぞるごとに

智の描くことへの愛情が

絵に塗り込められた牡丹さんの想いまで、鮮やかに取り戻させたんだ｡

｢しぶとく食い下がったけど｡
たかが生き霊ごときにもう後れは取らない｡

終わりだよ、女｡
ニノは返して貰う｣

｢……この子は逃がさない｡
絶対に渡さない｡
アイツを探し出す為にこの子は貰い受ける｣

……真白に染まる雪と、真っ赤な彼岸花が咲き乱れた世界｡

浅いまどろみから目覚めるように

牡丹さんの記憶が作り出した幻想から

オレは元の世界へと戻ってくる｡

“ニノに寂しい思いなんて、俺はさせないよ？”

言葉通りアンタは

オレに悲しい思いも寂しい思いも

させたことのない人だった｡

牡丹さんの狂おしい想いに溺れそうになるたびに

アンタの声が、オレを元の世界へと引き戻してくれた｡

“俺はニノが楽しいんなら、なんでも楽しいよ｡”

“ニノが幸せじゃなかったら、俺の全部に意味がねぇの｡”

アンタの想いが激情に飲み込まれて

消えそうになるオレに力を与えてくれたんだ｡

心を塗り替えるみたいに沁みてくる牡丹さんの想いも

智｡

アンタという存在も｡

そして、この世界に存在して

みんなと泣いて笑って生きている

自分自身すら愛しいと｡

今のオレは、胸を張って言えるから……

失っていた意識が急速に蘇り全身に力を取り戻していく｡

体を起こして対峙する二人を視界に捉えると

両刀を操る智と、

白い数珠を握りしめる牡丹さんの間に体を滑り込ませた｡

｢ニ、ノ…？
何してんの？
なんでその女を庇うの？｣

目一杯両腕を広げて、智から牡丹さんを背中に隠す｡

｢そこどいてよ｡
その女は生き霊｡
ソイツが存在してる限り、ニノは狙われ続ける｡
俺がその女を完全に消滅させる｣

｢……イヤだ、どかない｣

これはオレの役目｡

牡丹さんの記憶と想いに触れた、オレの役目｡

智に牡丹さんを傷つけさせちゃいけない｡

牡丹さんに智を傷つけさせちゃいけない｡

どんなことしてでも

これ以上誰にも

悲しい思いなんてさせない｡