ぼくらのおうち｡4～Mｙ sweet home～/気象ﾊﾟﾛﾃﾞｨ (ページ5)

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35.麗しく、狂おしく、愛おしく/N ページ5

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“……アンタ｡
世間知らずとか思ってんだろ？”

柔らかな木漏れ日が、二人を優しく包んでる｡

“ホラやっぱり!
絶対馬鹿にしてる!!”

“違う違う、
そんなことないって!”

オレはまた牡丹さんの記憶の海に溺れてる｡

でも、今まで見てきたどの記憶達とも違う｡

穏やかな記憶を、オレは牡丹さんの中から見てる｡

牡丹さんとして、牡丹さんの心を感じながら、この記憶を見てる｡

目の前で柔らかく微笑んでいる人の顔はよく見えないけど

拗ねたような口調とは裏腹に

牡丹さんの心がまぁるく満たされて

花開く時を待つ蕾のように膨らんでいく｡

『こんな何気ない時間が、堪らなく幸せだったんだ』って｡

甘美な痛みが胸を抉っていく……

“いいからとにかく食べてみろよ？
甘くて美味いよ？”

手渡された果物を牡丹さんは見たことがないのか

訝しげに暫く見つめ、恐る恐る口にする｡

“……ホントだ、甘い｡
それに凄く瑞々しい｡”

豊かで、瑞々しくて、どこまでも甘い｡

これ｡

この味、無花果だ｡

“……ね？
美味しいでしょ？
どう？気に入った？”

“……ん、美味しい｡”

目の前の男の人の顔はやっぱり木漏れ日が邪魔してよく見えない｡

でも、美味しいって無花果を齧る牡丹さんを見て

口元に笑みが浮かんだ｡

……この男の人にとっては

きっとなんでもない時間だったんだろう｡

すぐに忘れてしまうくらい、何気ない日常だったんだと思う｡

だけど牡丹さんには、特別な時間だった｡

こんななんでもないゆっくりとした時の流れが

震えるほどに愛しくて｡

牡丹さんは決して忘れないように、その胸に刻んでる｡

木々を揺らしながらさわさわと風が渡る音も｡

無花果の瑞々しさと甘さも｡

この男の人と共有した全部が全部、何よりも愛しいから｡

忘れてしまわないように、自分の中に刻みつけてる｡

……大切なんだ｡

たったこれだけのことが嬉しくて｡

二人で無花果食べただけの何気ない時間が

牡丹さんにとっては宝物になるくらい大切で｡

ただただ一途に

この男の人のことが大好きなんだ………

ざぁ…と強い風が吹いて、景色が一変する｡

今度オレが見てるのは

初めて牡丹さんの記憶に触れた時と同じ｡

ちらちらと真白に染まる雪の中｡

オレは雪が舞い踊る無音の世界で、

目の前に立つ人と、二人っきりで存在している｡