ぼくらのおうち｡4～Mｙ sweet home～/気象ﾊﾟﾛﾃﾞｨ (ページ36)

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08.子羊ちゃんと狼/S ページ36

｢わっ、落としちゃった!
な～んてね｣

智君がアイスのカップをわざと逆さにしても

伸びるアイスはカップに収まって、綺麗なくるくるのまんま｡

｢はい、どうぞ｣

『おぉー』とどよめいた行列をさして気にするふうでもなく

智君はふにゃふにゃの人好きする笑顔で

母親に抱かれた女の子にアイスのカップを手渡す｡

｢おにいちゃん、ありがと｣

スプーンで一掬いしてアイスを小さな口元に運んだ女の子は

母親の腕の中で満面の笑みを浮かべてる｡

トルコのドンドゥルマというアイスは粘り気が強く、

逆さにしても例え振っても、カップやコーンから落ちたりしない｡

｢大ちゃん、やっぱ器用だよね｡
年季の入った職人さんみたいだもん｡
今日初めてにはとても見えないよ｣

｢あぁ｣

潤は潤でくるくる肉を焼きながら

ニノから指示が飛ぶと、適当に切り分けて

ピタパンと呼ばれるポケット状のパンに

野菜やオリジナルソースと一緒に入れてサンドウィッチを作ってる｡

ニノはレジをしながら、客の流れを見て

行列をさばき、注文をさばいて、

調理担当の潤とアイスの実演やってる智君に、的確な指示飛ばしてるけど……

なんせ客の人数がハンパない｡

結構な人数が行列作ってんのに｡

まだまだ人が集まってくる｡

おれの横をすり抜けて通っていく女の子二人も、雅紀の店が目当てみたいだ｡

｢ほら、見て見て!
あそこのケバブ屋さん!
みんなイケメンばっかだよ!?
レジやってる子も可愛いし～
あたし、あのアイスの人、好みかも～｣

｢え～、私あのお肉焼いてる人～
//やだぁ～、凄い男前じゃない!!
あの人、付き合ってる女の子とかいるのかなぁ？
お友達になりたいくらいだわ!
ねぇねぇ、私達も並ぼう？｣

｢えぇ!!｣

……マズイ｡

これはマズイ｡

まだまだ今の女の子ぐらいならいい｡

もしとんでもない百戦錬磨のお姉さん達に、潤が目を付けられたらどうする｡

智君は知らん｡

あの人は自分でなんとかするだろう｡

ニノは智君が守るだろうし

あの中で潤だけが無防備じゃないか｡

生まれたての子羊ちゃん状態じゃないか｡

狼に襲われたらどうする｡

おれが潤を守らねば、誰が潤を守るんだ!

｢ヨシ、雅紀急げ!!｣

｢なんか分かんないけど、翔ちゃん、やる気スイッチ入ったの？｣

ぐんぐん歩き出したおれの手首を

ふいに誰かがぐっと握りしめた｡